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2022年5月16日月曜日

確率の積の法則と樹形図

先ず、以下の用語の定義をハッキリさせておく。
「事象の排反」は,
「ある試行において、一方の事象が起こったときに
他方の事象は決して起こらない」ことである。

「試行の独立」は,
「2 つの試行が互いに影響を及ぼさない」ことであり,
「ある試行が他の試行とお互い影響しない」
ということである。

これに対して
「事象の独立」は、
「試行の結果として,起こりうる事象が、お互いの起こり方が他方に影響を与えない」ということであり,
「どちらも起こっている」ことが前提になっている。


【積の法則】
 事象Aと事象Bが、互いに相手の事象がどうであるかに影響されずに、全く独立して起きる事象である場合は:
Aかつ Bの確率=Aの確率× Bの確率=P(A)P(B),
p(A∩B)=p(A)p(B),

 また、逆に、確率の積の法則が成り立つならば、事象Aと事象Bは独立して起きる事象である。

【積の法則と、A∪Bの確率】
 事象Aと事象Bが、互いに相手の事象がどうであるかに影響されずに、全く独立して起きる事象である(積の法則が成り立つ)場合は:
Aまたは Bの確率=Aの確率+Bの確率-(Aの確率× Bの確率)=P(A)+P(B)-P(A)P(B),

《証明》
Aまたは Bの確率=
={(Aで無い)かつ(Bで無い)}では無い確率

=1-(1-P(A))(1-P(B))
=1-{1-P(A)-P(B)+P(A)P(B)}
=1-1+P(A)+P(B)-P(A)P(B)
=P(A)+P(B)-P(A)P(B)
=P(A)+P(B)-(P(A)× P(B)),
(証明おわり)

なお、この公式と等価な以下の公式が成り立つ。
Aまたは Bの確率=P(A)+(1-P(A))P(B)

(事象の独立の様子)
p(A∩B)=p(A)p(B)となる、事象Aと事象Bが独立な場合の樹形図は:
以下の図でs=abとなる場合である。



【問題1】

 下図のように、A駅からC駅に行くには、X路線を使うルートと、Y路線を使ってB駅まで行き、その後、Z路線を使うルートの2通りがある。 各路線は、独立にそれぞれ一定の確率で終日運休することが分かっており、X路線は1/6の確率、Y路線は1/7の確率、Z路線は1/8の確率で終日運休する。このとき、ある日においてA駅からC駅に行くことができる確率はいくらか。


【解答】
 以下の樹形図を発想して考えると良い。

確率計算のコツ:
(2つの独立な事象AかBが生じる確率)=
=(Aが生じる確率)+(Aが生じない確率)・(Bが生じる確率)
という公式が成り立つ。


X路線の運休する確率(1/6)≡a,
Y路線の運休する確率(1/7)≡b,
Z路線の運休する確率(1/8)≡c,
とする。

シンプルに(どこかを通れば)A駅からC駅に行くことができる確率
=X路線で行ける確率+X路線で行けない場合に(Y+Z)路線で行ける確率
で計算する。

X路線で行けるときには、
(Y+Z)路線で行けても、それは、X路線で行けるという事象とダブっているので、
X路線で行ける確率+(Y+Z)路線で行ける確率
という計算はしてはいけない。

 正しい計算は:
X路線で行ける確率+X路線で行けない場合に(Y+Z)路線で行ける確率
=(1-a)+a(1-b)(1-c)
=1-a+a(1-b-c+bc)
=1-a(b+c)+abc
=1-a(b+c-bc)
である。
(解答おわり)

【確率の乗法定理】
 確率の積の法則は、事象Aと事象Bが、相手の起き方に影響されずに独立に起きる事象の場合であるときの法則でした。
一方で、事象Aと事象Bが独立していない、事象Bの起き方が事象Aが起きることに影響される場合は、
事象Aが起き、かつ、事象Bが起きる確率は以下の式であらわせます。
Aかつ Bの確率=
=(Aが起きる確率)×(Aが起きた場合においてBが起きる確率)
=P(A)×P(B),
とあらわします。
P(B) は、(Aが起きた場合においてBが起きる確率}
をあらわします。これを、「条件付き確率」 と呼びます。
このようにAかつBの確率をあらわすことを、確率の乗法定理と呼びます。



直ぐ上の式と直ぐ下の式とが、より正しい式である。


しかしながら、上の式らも、完全に正しい式であるとは言えない。
 上の式らで計算する確率P(A)の値は必ず有理数になる。
しかし、以下の例のように、値が無理数になるのでその式では表せない確率の値P(A)もあるからである。

ビュフォンの針
 平面上に間隔dで平行線を引く。長さL(≦d)の針を適当に投げたとき,針が線と交わる確率P(A)の値は、

である。(ここで、πは無理数3.14・・・である)

 この確率P(A)は無理数になるので、

という式も、確率P(A)を定義する完全な式では無い。
そのため、上の式も、完全な式では無い。完全な式は、n(□)を使わない式であり、確率の式同士の演算を表す式が、完全な式である。

 次には、積の法則が成り立つ場合とは前提条件が全く異なり2種の事象が独立ではない場合に成り立ち得る別物の法則:
【和の法則】

 事象 Aと事象 B が、決して両立しない事象(排反事象)の場合、すなわち:

確率Aで事象Aが起きているときは、
確率Bの値が(事象Aに影響されて)0に変化して、
(P(A)×P(B))=0 になってしまう。そして、
Aかつ Bの確率=0,になる。
p(A∩P)=0,

その場合は:
Aまたは Bの確率=P(A)+P(B),


(補足)p(A∩B)=0とは限らない場合(AとBが排反事象ではない場合)の1例(独立事象の場合)は:


(決して両立しない事象(排反事象)の例)
Aが、雨が降る確率=1/3,
Bが、雨が降らない確率=2/3,
の場合、
AかつBの確率は、
P(A)×PA(B)=(1/3)×0,
(Bは、Aに影響されて0になってしまうため)

(補足1)
 なお、積の法則や和の法則は当たりまえのことなので、問題を解くときに、「積の法則により~」や「和の法則により~」などと書く必要は無い。


(補足2)
和の法則の説明が:

「事象Aの起こる確率が pA 、事象Bの起こる確率が pB であり、
AとBが同時には起こらないとき、
事象Aまたは事象Bが起こる確率はpA+pB である。」

と教えられていますが、その説明で使われている「同時に起こらない」という言葉は、「同時刻に起こらない」という意味では無く、「(1回の試行で)同時に起こらない」という意味です。(1回の試行で)という前提条件が無い事象の場合では「両立しない」と言う意味の言葉であることに注意すること。

《 p(A∩B)=p(A)・p(B)とは限らない場合の問題例》

【問題2】

 袋に、番号1,2,3,4,8,9,という番号が付いた6枚のカートが入っている。
(1)この袋から1枚のカードを取り出したとき、その番号が偶数である確率はいくらか。
(2)この袋から1枚のカードを取り出したとき、その番号が3の倍数である確率はいくらか。
(3)この袋から1枚のカードを取り出したとき、その番号が偶数であり、かつ、3の倍数である確率はいくらか。

【解答】
(1)カードの番号が偶数である確率は3/6=1/2
(2)カードの番号が3の倍数である確率は2/6=1/3
(3)カードの番号が偶数であり、かつ、3の倍数である確率は0
(解答おわり)

【問題3】
 さいころを1回ふったとき、1が出ず、かつ、2が出ない確率を求めよ。

【間違え易いポイント】
1が出ない事象を、事象Aとする。
2が出ない事象を、事象Bとする。

事象Aと事象Bそれぞれの確率は、

である。
しかし、1が出ず、かつ、2が出ない確率は、

となって、確率の積の法則が成り立たない。
 以下のように考えると、なぜ確率の積の法則が成り立たないか、その理由がわかる。
事象Aの余事象を文字Aに上線を付けた記号であらわす。それは、1が出る事象である。
事象Bの余事象を文字Bに上線を付けた記号であらわす。それは、2が出る事象である。

であるが、1が出る場合に同時に2が出る確率

となって、事象Aの余事象と事象Bの余事象は、互いに独立な事象でない。
そのため、事象Aと事象Bも、互いに独立な事象ではない。
ゆえに、事象Aと事象Bの間に、確率の積の法則が成り立たなかったのである。

1が出ず、かつ、2が出ない確率は、正しくは、

である。

【問題4】
 さいころを1回ふったとき、2の倍数でない目が出て、かつ、5の倍数が出る確率を求めよ。

【間違え易いポイント】
2の倍数が出る事象を、事象Aとする。
5の倍数が出る事象を、事象Bとする。

以下に、事象Aと事象Bに係わる樹形図を書く。

 すなわち、事象A(2の倍数)と事象B(5の倍数)の間には確率の積の法則が成り立たない。

 しかし、
2の倍数が出る事象を、事象Aとし、
3の倍数が出る事象を、事象Bとするならば、
確率の積の法則が成り立つ。




p=rとなって事象Aと事象Bが独立して起きると言える場合は、確率の積の法則が成り立つ場合のみである。

【問題5】
 1から10までの整数が1つずつ書かれている 10枚のカードがある。
 この10枚のカードから,1枚のカードを無作為に取り出して、書かれた整数を調べてからもとに戻す。この試行を4回繰り返す。取り出したカードに書かれた整数の最大値をX,最小値をYとするとき、X=7かつY=2となる確率を求めよ。

【解答】
 以下の樹形図を書いて考えれば良い。

a-b-c+s
が求める確率である。
(解答おわり)

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