2025年3月4日火曜日

微分積分の礎の関数の連続性と現代数学の位相空間論

やさしい微分積分
〔前のページ〕〔次のページ〕〔微分積分の目次〕
《実数とは》
 例えば、以下の図の規則によってx=1から、x=2、次にx=3/2 というように有理数の値を変えてくと、限りなく近づく先の数が有理数の中には無い。しかし、そのように限りなく近づく先の数が存在すると考えた。その数を実数と呼ぶ。


 このように、「限りなく近づける」操作(極限の操作)が、数の概念を拡張することを要請し、そうして拡張された新たな数が実数であった。この拡張された数である実数から成るとされる数直線には数の連続性があるとされた。このように極限の操作によって数の概念が実数にまで拡張され、それが数の連続性と微分積分の礎になった。


1970年代の高校数学の参考書「大道を行く数学(解析編)」から、以下の知識が得られる。

[連続の定義]

のとき、関数y=f(x)は x=a で連続であるという。

 また、f(x) がある区間のすべてのxで連続のとき、その区間で連続であるという。

 しかし、(10)式は単なる定義であって、それだけではいろいろな問題を考察するのに不十分であろう。連続について知るには、裏返して不連続である場合を知るのが早道である。不連続の場合は、(10)式が成り立たない場合だから、次の4通りが考えられる。

以下、これらについて、例をもって説明しよう。 





例2.9 [x] はxを越えない最大の整数とする.





どちらも存在しない.このことについては多くを語る必要もないであろう.



例2.10 無限個の項の和が存在するとして定義された関数

は、x≠0のとき、次のような工夫をすると簡単な形にまとめられる.


この関数のグラフは図2.10 の通りである.

 不連続な場合、f(x) のグラフは不連続なxにおいて切れていて、連結していない.このことは逆に連続なときは、グラフはxにおいて切れ目のない線になっている.また(10)式は、
  x-aが無限小のとき、f(x)-f(a) が無限小
ということである.したがってf(x) が連続なところでは
  xの微小変化に対応し、f(x) が微小変化する
そして、このような関数を連続関数というといいかえても良い.

(参考)藤原松三郎の「微分積分学 第1巻」によると、「f(x)がx=ξで連続でない場合に、x=ξ(という変数xの数直線上の点)をf(x)の不連続点という。」と定義されている。

〔定義の役割〕
 連続関数とは、第1の条件として、関数の定義域が連結していること、第2の条件として、定義域の点毎に関数f(x) の値域が連結していること。その2つの条件が成り立ちグラフが1つながりに連結している関数f(x) をどのように表すかが連続関数の定義の役割である。

(注意1)関数f(x) の点とは、関数をあらわすグラフ上の点ではなく、変数xの数直線上の点である。

(注意2)
 「不連続点」の定義は、現代数学の位相空間論の定義では、その不連続なxの値で関数値f(x)が定義されている場合のみに「不連続点」という言葉が使える。つまり、古典的(基礎的)な微分積分学における上の例2.8 のx=1の点のように関数値f(1)が定義されていない点は、位相空間論の定義では不連続点とは呼ばない。

〔古典的(基礎的)微分積分学〕
 古典的(基礎的)微分積分学では、関数の連続性の定義は、〔定義の役割〕における2つの条件が満足されるように定義する。先ず、第1の条件を満足するために、変数xの点aの近傍で実数が連結する区間内(連結する全ての実数)での極限を用いる。次に、第2の条件を満足するように、式(10)によって関数f(x) の連続性を定義している。
「区間で定義された関数f(x)が、その区間のすべてのxの値で古典的(基礎的)な連続性があるとき、f(x)は古典的(基礎的)な微分積分学で定義された連続関数である」
そして、実数上のx=aの点で関数f(x) の連続性の条件が満たされない場合を、その(実数上の)点aを、不連続点と呼んでいる。実数上のx=aの点は、関数f(x) の連続な点であるか、関数f(x) の不連続点かの2つの場合のどちらかである。

〔位相空間論によって再構築した微分積分学〕
 一方で、位相空間論によって再構築した微分積分学では、関数の連続性の定義は、〔定義の役割〕における古典的(基礎的)微分積分学における連続関数の定義の2つの条件のうちの第2の条件のみを満足する定義である。すなわち、関数の変数xの定義域(例えば連結しない有理数が定義域とされる等、定義域の連結性は要求しない)内の点aの近傍での、定義域に限定された極限を用いて関数f(x) の値域の連続性を定義している。
「関数 f(x) が、その関数f(x) の定義域のすべての x の値で位相空間論的な連続性があるとき、 f(x) は位相空間論で定義された連続関数である」
そして、定義域上のx=aの点で関数f(x) の連続性の条件が満たされない場合を、その(定義域上の)点aを、不連続点と呼んでいる。実数上のx=aの点は、
①関数f(x) の定義域の外の点(位相空間論において「数」の1つとは認識されない点)であるか、
②定義域上の点であって関数f(x) の連続な点であるか、
③定義域上の点であって関数f(x) の不連続点であるか、
の3つの場合のどれかである。
位相空間論では、関数f(x)=1/x において、点x=0は連続でない点であるが、定義域の外の点であるので不連続点とは呼ばない。

(注意3)「不連続点」という言葉は、位相空間論の「不連続点」を指す場合が多いようです。(位相空間論で定義された言葉を基礎的微分積分学(高校数学)に混ぜないで欲しい)。古典的(基礎的)な微分積分学が定義する「不連続点」は、このブログでは、「連続でない点」と呼ぶことにして数学用語を明確にします。


【微分積分の初心者には、位相空間論の議論が破綻しているように見える】
 位相空間論では、極限の概念を、有理数の独立変数xが限りなく近づく先を有理数のみに限定できる(位相空間論に基づく)極限操作を定義している。
 位相空間論では、有理数が数であると定義されている場合に、その有理数の数列の極限操作に、新たな数(実数)を発想する操作を認めない(実数への極限を排除する)。数とは有理数であると定義した場合において、有理数の数列の極限が実数の無理数になる場合は、(無理数は有理数ではないのだから)数列の極限の数が存在しないとして無視することにする。そういうルールにより、極限の概念の適用を制限し、数学体系を再構築する。位相空間論は、そのように既存知識(数とは有理数である)という思考の枠組みからはみ出さない限界を極限の概念に負わせて構築した数学体系である。位相空間論では、そのように新たな数(実数)という発想を生まないように極限操作を限定する。それにより、既存の数の概念の範囲に限定して抽象化した関数の連続性の性質を調べている。
 位相空間論による、関数f(x) の点aにおける連続性の定義では、式(10)の極限のターゲットの値aは、関数f(x) の定義域の外の数は対象外にする。xの極限のターゲットの値aはxの定義域内の値に限定するので、必ずf(a) が存在する。それを前提にして抽象化された「位相空間論の関数の連続性」を定義する。

 しかし、位相空間論で定義された関数の連続性には以下の難点がある。

 位相空間論での関数の連続性の定義では、以下のグラフであらわされる、有理数を定義域とする関数f(x) が、どの有理数の点でも関数が連続になる。

(参考)同様な議論が、「嶺幸太郎 著:微分積分学の試練」の130ページにある。
(130ページから引用)「なお,単に関数が連続だからといってグラフが繋がるとは限らない.次の例は、連続関数のグラフが繋がるためには定義域自身が繋がっている必要があることを示唆する:例8.5.2」

上のグラフで、x=√2 の点は、関数f(x) の定義域(有理数)に属さない。位相空間論では、関数f(x) のxの定義域に属さない点 x=√2 では、関数が連続とも、不連続とも評価しない(不連続点とは、関数f(x) のxの定義域の範囲に限定された点のうちの1つである)。位相空間論では、定義域に属さないxの点は不連続点とは言わない。
 上図の有理数を定義域とする関数f(x) は、定義域(有理数)のどの点においても位相空間論の連続性が満足されている。
 図の通りに関数f(x) はf(x) の値がx=√2 の点でf(x) の値が極端にずれている。しかし、xが全ての有理数で定義されたこの関数f(x) は、位相空間論の連続性の定義では連続関数である。位相空間論では、独立変数xの数列の極限値がxの定義域の外の数になることを無視する(1°や3°を調べることを許さない)。そのため定義域は連結しない。位相空間論では、そのように極限の概念を制限して定義域が連結しないことに起因して、この図のように切れ切れのグラフが繋がっていないことが判別できずに、この関数を連続関数と呼んでしまっている。位相空間論の定義する連続関数のグラフが繋がるためには定義域が連結している(〔定義の役割〕の第1の条件を満足する)必要がある。(有理数全体は連結していない)
 位相空間論では、上図の関数f(x) の定義域のxの集合の中の2つの独立したxの集合B(-√2<x<√2)と集合C(√2<x<3√2)を考える。集合BとCが、xの境界点β(x=√2 )をそれらの集合の共通の境界点としている。その境界点βが集合BにもCにも含まれない場合は、独立変数xの定義域の集合がその無理数βの点で連結していない。位相空間論の場合は、変数xの定義域が連結していないことが、古典的な微分積分学での「関数f(x) が点βで連続でない」に対応する。
 位相空間論には、フェリックス・ハウスドルフの貢献が大きい。
ハウスドルフの書いた集合論の教科書が位相空間論の基礎になっている。ハウスドルフの集合論の教科書を読むと、議論が破綻しているものになっていることに驚く。もちろん、議論の全体としては、(ある意味で?) 破綻をきちんと回避している。
 フェリックス・ハウスドルフの研究成果の位相空間論を簡単に理解できると安易には考えずに、その理論が教えようとする心を学んで欲しい。その心の理解のためには、位相空間論を学ぶ以前に、 古典的(基礎的)微分積分学の基礎になっている連続関数の概念は、区間で連続な関数のことである ことを学んでおいて欲しい。

 古典的(基礎的)微分積分学で、区間で連続な関数が千切れていなかった性質は、位相空間論によって、関数f(x) の独立変数xの定義域の連結性に依存していたことが浮き彫りになった。位相空間論によって、古典的(基礎的)微分積分学で連続関数と定義されていた、区間で連続な関数f(x) の性質が、関数の抽象化された連続性の概念と、関数の独立変数xの定義域の抽象化された連結性の概念と、で構成されていることが浮き彫りにされた。

リンク:
連続性公理と実数を定義する3つの方法 (初学者向けの話)
関数の極限の定義
関数の極限と連続性
第3章 位相空間の基礎のキソ
高校数学の目次