2018年5月10日木曜日

条件付き命題の対偶の表現のバラエティ

 条件関係がある命題には、対偶が作れる。
条件関係が無いように見える命題にも、条件関係を持つ命題がある。そういう命題には対偶が作れる。
《条件関係がある命題の例》
 「Aさんの母親は30歳である」
この命題は、条件関係が明確にされた以下の命題に言い換えることができる。
 「Aさんの母親である、ならば、30歳である」
これは、「ならば」がある条件関係がある命題なので、対偶が作れる。対偶は以下の命題になる。
 「30歳で無い、ならば、Aさんの母親では無い」

《条件関係が無い命題の場合》
 「Aさん又はBさんが10歳である」
この命題は、条件関係が無い命題なので、対偶が作れない。
しかし、条件関係を掘り起こして、条件関係がある、この命題に等価な以下の命題に書き換えることができる。
 「Aさんが10歳で無い、ならば、Bさんが10歳である」
これは、「ならば」がある条件関係がある命題なので、対偶が作れる。対偶は以下の命題になる。
 「Bさんが10歳で無い、ならば、Aさんが10歳である」
このように作った対偶は、最初の命題の言い換えと言えるので、何かが変な条件関係である。
《他の条件関係を掘り起こした命題》
 「Aさん又はBさんが10歳である」
という命題から、他の条件関係を掘り起こして、この命題に等価で、しかも条件関係がある、以下の命題に書き換えることができる。
 「AさんとBさんとの2人、ならば、その2人のどちらかは10歳である」
これは、「ならば」がある条件関係がある命題なので、以下のように対偶が作れる。
 「ある2人のどちらも10歳で無いならば、その2人はAさんとBさんでは無い」
《条件関係の本質》
 「PならばQである」、という条件関係を表す命題は、その命題の真偽の関係も含めて「Pで無いか、またはQである」という命題と等価である。そのため、「Pで無いか、またはQである」と表現された、条件関係が無い命題であっても、「PならばQである」という条件関係を表す、等価な命題に変換できる。 すなわち、「いかなる場合もPならばQである」という命題は、「いかなる場合もPで無いかQである」という命題と等価である。

【問1】以下の命題の対偶を述べよ。

条件Aが成り立つ場合に、
「BならばCである。」

【解答】
 この問題の命題は、
「AでありBならばCである。」
 と言い換えることができます。
その対偶は、
「Cで無ければ、Aで無いかBで無いかである。」 
 という命題になります。
(解答1)

その命題を言い換えると:

「条件Aが成り立つ場合に、
Cで無いならばBで無い。」
と言い換えることができます。
よって、この問題の解答として:

「条件Aが成り立つ場合に、
Cで無いならばBで無い。」
(解答2)
と答えても正しい解答です。
(解答おわり)

(補足)
「条件Aが成り立つ場合に」
という言葉には、
「条件Aが成り立たない場合は、
条件BとCの関係として記載された制約が無くなり、
「CであることもCで無いことも起こり得る」
と言う意味が含まれています。

【問2】以下の命題の対偶を述べよ。
条件Aと条件Bが成り立つ場合に、
「CならばDである。」

【解答】
 問1と同様に考えることができ、
問2の命題の対偶は:
「条件Aと条件Bが成り立つ場合に、
Dで無ければCで無い。」
である。
(解答おわり)

《対偶は、命題の内容を、視点を変えて表現するもの》
 命題の対偶は、元の命題に情報が等価な命題です。対偶は、元の命題に忠実に等価な命題です。元の命題が誤っていれば、対偶も、元の命題に等価な、誤った命題になります。元の命題が記述する情報が不十分であれば、対偶も、元の命題に等価な、不十分な情報を与える命題になります。

(対偶の例1)
「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」
の対偶は、
「和X+Yが有理数ならば、Xが無理数であってYが有理数であるか、または、Xが無理数であってYが無理数であるか、または、Xが有理数であってYが有理数であるか、の何れかである。」

(対偶の例2)
「Xが無理数かつYが有理数であるか、または、Xが有理数かつYが無理数であるならば、その和X+Yは無理数である。」
の対偶は、
「和X+Yが有理数ならば、Xが無理数であってYが無理数であるか、または、Xが有理数であってYが有理数であるか、の何れかである。」

(例1と例2のまとめ)
 対偶は、 (命題1)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」
という命題が表現している情報に等価な情報を、視点を変えて表現するものです。

(命題1)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」という命題の表現を、
XとYを入れ替えてこの命題を書き直すと、
(命題2)「Yが有理数かつXが無理数ならば、その和Y+Xは無理数である。」に変わります。命題2は命題1と情報が等価な命題です。
ここで、X+Y=Y+Xという情報を代入してこの命題を書き直すと以下の命題3に変わります。
(命題3)「Yが有理数かつXが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」に変わります。この命題3は命題2に新しい情報が加えられることで得られたので、命題2とは情報が等価ではありません。
命題1と命題3を合わせると以下の命題4が得られます。
(命題4)「Xが無理数かつYが有理数であるか、または、Xが有理数かつYが無理数であるならば、その和X+Yは無理数である。」
 この命題4の対偶は、
「和X+Yが有理数ならば、Xが無理数であってYが無理数であるか、または、Xが有理数であってYが有理数であるか、の何れかである。」です。例2の対偶と同じです。

 そのようにして命題1に足し算の交換法則を加えて命題4が得られますが、命題4の対偶は、命題1の対偶とは異なります。
そうなる対偶の性質を見ると、命題の対偶をとる処理は、命題が表現している文字XとYの表現を、文字を入れ替えて表現し直す操作と同じ優先順位を持つ演算の一種ではあります。
しかし、命題の対偶をとる演算は、X+Y=Y+Xという新しい情報(足し算の交換法則)を命題に代入する演算よりも優先順位が高く、その演算よりも先に行うべき演算が対偶をとる処理です。そのため、命題1の対偶は、命題4の対偶とは異なりました。

(補足1)==対偶は、しっかりした論理の基礎==
 対偶の作り方は、命題の論理的帰結よりも先に、命題の記述を優先して対偶を作ります。
対偶をとる元の命題毎に、その命題に等価な対偶が作られます。元の命題が異なれば異なる対偶が作られます。
そうする理由は、
対偶によって、命題の内容の真偽よりもしっかりした、等価な命題が得られるためです。
 命題が間違っている場合も、その命題の対偶はその命題に確実に等価であり、その命題の間違いを、しっかり受け継いで命題の誤りをハッキリさせることができます。
(誤った命題の例)
「X+Yが有理数ならばXとYの少なくとも一方は無理数」
この命題の対偶は:
「XとYともに有理数ならばX+Yは無理数」
になります。
元の命題に等価な対偶の命題によって、元の命題の誤りをハッキリさせることができます。

【問3】以下の命題の対偶を述べよ。
(命題5)「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において、
Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」

【解答】
対偶は、「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において、和X+Yが有理数ならば、(Xが有理数かつYが無理数)では無い」である。
ここで、(Xが有理数かつYが無理数)では無いものの候補を列挙すると、
Xが無理数であってYが有理数であるか、
または、Xが無理数であってYが無理数であるか、
または、Xが有理数であってYが有理数であるか、である。
しかし、X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下では、「和X+Yが有理数ならば」という言葉に続く言葉のXとYを入れ替えても同じ情報になる。そのため、(Xが無理数であってYが有理数)は、(Yが無理数であってXが有理数)と同じものになる。それも除外しなければならない。
よって、求める対偶は、
「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において、
和X+Yが有理数ならば、Xが無理数であってYが無理数であるか、または、Xが有理数であってYが有理数であるか、の何れかである。」である。
(解答おわり)

(補足2)
(命題5)「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において、
Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」
という命題と、
(命題1)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」
という命題は異なる命題です。
また、
(命題1)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」という命題と、
(命題6)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和Y+Xは無理数である。」という命題は異なる命題です。

(命題5)が、(命題1)に「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において、」という、当たり前の前提事項であると思われる情報をあらわす言葉を加えるだけで、命題1と異なる命題に変わるのは以下の理由によると考えます。
 (命題1)の記述には、X+Y=Y+Xという(当たり前と思われる)情報は書いて無い。その当たり前と思われる情報を(命題1)に代入する演算よりも、(命題1)の対偶をとる演算の方が優先順位が高く、その対偶をとった後で、X+Y=Y+Xという条件を加える演算を行うべきという演算の優先順位があると考えます。そのため、(命題1)では、対偶を取った後で、X+Y=Y+Xという条件を加えるべきと考えます。一方で、(命題5)は、対偶を取る前に、X+Y=Y+Xという条件を加えます(命題の中にそれが書いてあるからです)。そのように、(命題1)と(命題5)は、対偶を取る場合に、X+Y=Y+Xという情報の扱いが異なるゆえに区別でき、異なる命題だと考えます。

 ここで、「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において」という条件付き命題に対して、その条件を付けない命題の区別はとても難しいとも言えると思います。なぜならば、「和X+Y」という式には、「和Y+X」でもあるという意味が含まれているという解釈も可能だからです。
(命題1)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」
という命題は、
(命題7)「Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Y=Y+Xは無理数である。」
という命題であるとも解されるからです。命題7は、命題5と等価であって、
(命題4)「Xが無理数かつYが有理数であるか、または、Xが有理数かつYが無理数であるならば、その和X+Yは無理数である。」
とも等価です。この、「和X+Y」の言葉の解釈が微妙なので、命題1が、命題7や命題5と解釈されてしまうことがあるという、問題の難しさがあります。ただし、命題7であると思って「命題1」の記述をしたいのならば、問題が難しくならないために、もっとわかり易い表現である、
(命題5)「X+Y=Y+Xが成り立つ条件の下において、Xが有理数かつYが無理数ならば、その和X+Yは無理数である。」
で表現した方が良いと思います。

【問4】(難問)
 集合Bが集合Aの部分集合であることをA⊂B と表記し、以下に定義する。
A⊂Bであるとは、「(元x∈A)ならば (元x∈B)」が成り立っているということである。
命題「(元x∈A)ならば (元x∈B)である」の対偶を述べよ。

【解答】
 この問題は難しい。対偶として、
{(x∈B)の否定}ならば{(x∈A)の否定}
の形の命題を作れば良いのだが、
(x∈B)の否定をする記述のxの定義のために、xがAの元であるという記述(x∈A)が必要である。しかし、そのxを定義していた記述自体を、
{(x∈A)の否定}という記述に変更してしまうので、xを使った記述が必要としているxを定義する記述(x∈A)が否定されて消滅してしまうからである。
 そのため、対偶を作る元の命題の形を変えて、次に対偶を作るという工夫が必要である。
命題「(元x∈A)ならば (元x∈B)である」は、
以下の、前提条件が付いている命題に等価である。

全ての集合の元xに対して:「(x∈A)ならば (x∈B)である」

この命題ならば、対偶が作れる。その対偶は、以下の命題である。
全ての集合の元xに対して:「(xが集合Bの元ではない)ならば(xが集合Aの元ではない)」
(解答おわり)

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