2021年7月19日月曜日

組に区別なく人数指定なく(各人を区別できる)人を組分けする数と組分け問題の本質

《組み分け問題のあいまいさ》
 組み分け問題はきちんと問題文が定義されていないと、問題があいまいになる、という問題点があります。
(1)「組に区別が無い」という用語の意味の矛盾
 「組に区別が無い」と言う問題では、複数の組が、互いに異なる事がしっかり区別できる。組に区別が無いわけでは無い。組の人数が異なれば、その特徴で組が区別できる。また、誰がその組にいるかの特徴で組が区別できる。そのように区別できる組に対して「組に区別が無い」と指定することの意味は、ある組分けに対して、(同じ人数同士の)組の名前を付け替えてできる組み分けのバラエティの全ての組み分けを1つの組み分けとして考えるという意味です。すなわち、組の名前の付け方のバラエティを1まとめにする場合に「組に区別が無い」と呼んでいます。

m1,m2,m3,m4の4人を、2人、1人、1人の3つの組に分ける例を使って、「組に区別が無い」という意味について考えてみます。
先ず、人数で組が区別できます。
2人の組をA組と名付けることができます。
次に、誰が入っているかという特徴で組に名前を付けることができます。
m3が入っている組をB組と名付けることができます。
そのようにした組の名付け方の規則に従うと、
(m1,m2)(m3)(m4)
という組分けは、
(A組)(B組)(C組)の組分けであることになります。

(m1,m2)(m4)(m3)という組分けは、
(A組)(C組)(B組)の組分けであることになります。
どちらの組分けも、
A組がm1,m2,
B組がm3,
C組がm4,
という同じ分け方になります。

(m3)(m1,m2)(m4)
という組分けも、
(B組)(A組)(C組)の組分けであることになりますので、
先の組み分けと同じ組み分けになります。

このように、組の人数、さらにはメンバーによって自動的な区別がされます。
そして、「組に区別が無い」場合は、このように、組の名前が人とともに動いてしまうので、
強制的に組名を付けた組に人を分けた場合の組分けとは、
組分けの数が異なります。

(1b)「組に分ける」と「人に分ける」とで意味が変わるあいまいさ
 区別が無い(組名のバラエティを無くした)3組に分ける、のか、名前が付いた3組に分けるのかをハッキリさせないと問題があいまいになる。しかし、出題者側での思い込みにより、組には(特に指定しない限りは)区別が無いことを前提にした問題もある。そういう問題のあいまいさがある。
 同様に、区別が無い(名前のバラエティが無い)3人に分ける、のか、名前がある3人に分けるのかをハッキリさせなければならない。しかし、3人に分ける、と言う場合は、組み分け問題とは違って、名前がある3人に分けることが前提にあると解釈させる問題があるようである。「3人」の場合には、区別が無い3人の問題にはならないと考える根拠は無い。そういうように、出題者側での思い込みにより、人には(特に指定しない限りは)区別があることを前提にした問題もある、そういう問題のあいまいさがある。
(2)「3つに分ける」と言う用語の意味の矛盾
 組み分け問題では、6個の何かを、A組に0個、B組に3個、C組に3個分ける場合を、すなわち、A組には分けない場合も、「A組とB組とC組に分ける」1つの場合であるとする「分ける」という言葉の意味の拡張があります。その意味の拡張に従って、6個の何かを3個と3個との2つに分ける場合も、3つ目が0個であるという意味で、0個と3個と3個との「3つに分ける」と考える意味の拡張があります。そのように、6個の何かを2つに分ける場合も、3つに分けることの一種とする、「分ける」の意味の拡張があります。
(3)「3つに分ける」と言う場合の問題のあいまいさを無くすには:
 問題の条件に、「各組に1つ以上入れる」という条件を付け加えるか、あるいは、「ある組に入れる数が0個になっても良いものとする」という条件を付け加えることで、問題のあいまいさを無くすことができます。

《組み分けの考察(その1)》
 3つの組に、どの組にも1人以上の(各人が区別できる)構成員がいる、ある1つの組分けXは、
組にA,B,Cと名前を付けて、その名前を入れ替えると、3!=6の異なる組分けができる。

 組の区別が無い場合の組み分けを区別する方法は、ある1つの組分けXにおいて、各組の構成員によって組み分けを区別する。
ある人aが入っている組を1組とし、1組の構成員以外のある人bが入っている組を2組とし、1組と2組の構成員以外のある人cが入っている組を3組とする。
 
組の区別が無い場合の、組分けXでの各組の構成員が変らない組分けYは、すなわち、その組分けYでのどの組の構成員も、組分けXでのいずれかの組の構成員に完全に一致するならば、その組分けYは、組分けXと同じ組み分けである。

 組にA,B,Cと名前を付けて区別する場合は、組の区別が無い場合の1つの組分けXの、
人aがいる1組に、A,B,Cのどれかの組の名をつける3通りの場合が考えられる。
人bがいる2組に、1組に付けた組名以外のA,B,Cのどれかの組名がつけられる2通りの場合が考えられる。
人cがいる3組に、A,B,Cのうち、1組に付けた組名でも2組に付けた組名でも無いA,B,Cのうちで残った1つの組名がつけられる。
 すなわち、組の区別が無い場合の1つの組分けXは、各組を、A組、B組、C組と名付ける組名の名付け方のバラエティが3!通りある。
そのように、各組を、A組、B組、C組であると、組名によって区別するならば、その3!通りの組分けは異なる組分けになる。
組の区別が無い場合の1つの組分けXが、組を、組名A,B,Cによって区別するならば、3!個の異なる組分けになる。

《組み分けの考察(その2)》
 3つの組に(各人を区別できる)数人を分ける場合に、0人の組があっても良い場合は、 組にA,B,Cと名前を付けて、その名前を入れ替えても、異なる組分けが3つしかできない場合(以下の場合)がある。

なぜなら、組が区別される場合においても、上の組み分けの0人のA組と0人のB組を入れ替えても同じ組み分けにしかならないからである。組を区別する場合では、人が入っている組ならば、組の名前を替えれば、異なる組分けになる。しかし、人が0人の組同士の名前を入れ替えても、異なる組み分けには成らない。組の名前を変えることで組分けが変わるのは、人が1人以上いる組の名前を変える場合にのみ有効なことである。


【問1】

(各人を区別できる)9人を、(人数指定なく、組の区別なく)3つの組に分ける組み合わせは何通りあるか。

【問2】
(各人を区別できる)9人を、(各組に1人以上は入れて、組の区別なく)2つの組に分ける組み合わせは何通りあるか。

【問3】
(各人を区別できる)9人を、(各組に1人以上は入れて、組の区別なく)3つの組に分ける組み合わせは何通りあるか。

【問4】
(各人を区別できる)9人を、(各組に1人以上は入れて、組の区別なく)4つの組に分ける組み合わせは何通りあるか。

【問5】
(各人を区別できる)9人を、(人数指定なく、組の区別なく)4つの組に分ける組み合わせは何通りあるか。

【考察】《組分け問題の本質の数学構造を理解する》
 組分け問題を深く考えることで、組分け問題の底に隠されている本質の数学の構造が見えてくる面白さがあります。そういう面白さを見つけるように数学を学ぶのが楽しいことだと思います。

この問題の解答はここをクリックした先の解答ページにあります。これらの問題を自力で解いた後で、この解答ページに書いた【考察】も見てください。

リンク:
高校数学の目次

2021年7月18日日曜日

条件付き確率の計算例題3

【問1】
 3つの箱A,B,Cがある。Aの中には赤玉3個と白玉2個が、Bの中には赤玉3個と白玉4個が入っている。まず、A,B からそれぞれ1個ずつ玉を取りだして、空箱Cにいれる。次に、Cから1個取りだした玉が赤であっ たとき、それがAから取りだした赤玉である確率を求めよ。(九州工業大)

この問題の解答は、ここをクリックした先にあります。

リンク:
高校数学の目次

2021年7月16日金曜日

恒等式の定義と式の変換ルール

【恒等式の定義】
 式の中の文字にどのような数を代入しても成り立つ等式を恒等式と呼ぶ。「『数学小辞典』(矢野健太郎)より」

【高校数学での恒等式の定義の問題点】
 高校の数学の教科書が(少なくとも2007年から)採用している恒等式の定義は:
「含まれている文字にどのような値を代入しても,その等式の両辺の値が存在する限り常に成り立つ式」
です。(大学数学での恒等式の定義と異なります)

■高校数学の参考書「大学への数学Ⅰ&A」の231ページでは、大学数学での定義の方が教えられている。
■「方程式と恒等式の違い」のサイトでも、大学数学の定義の方が教えられている。

以下では、大学数学での恒等式の定義の話を続けます。
(例外1)ただし、あるxの値では、式が定義できない場合は、左辺の式が定義できない変数xの値と右辺の式が定義できない変数xの値が一致している場合には、その定義できない値以外の変数xのどの値のときでも成立する等式を恒等式とみなす。

(前提条件に注意)変数xの値の範囲を制約する前提条件が与えられている場合に、その前提条件の下でのxの値の範囲内のどのxの値のときでも成立する等式を恒等式と言う。(恒等式の変数xは、通常は、xは実数であるという暗黙の前提条件があることが多いです。)

(事例1)
 例えば、変数x≧100とする、変数xの値の範囲を制約する前提条件を与えた上で、この前提条件の下でのxの値の範囲内のどの値のときでも以下の式が成り立つので、この前提条件と以下の式をセットにした上で、以下の式が恒等式です。(大学数学での恒等式の定義)



(事例2)
 以下の関数f(x)がある場合に:
f(x)=1000, (x=1)
f(x)=x, (x≠1)
x≠1という前提条件の下に、以下の式(1)は恒等式です。



(注意)この恒等式(1)の左右の辺に(x-1)を掛け算した以下の式(2)も、最初に定めた前提条件の下に恒等式です。

しかし、x≠1という前提条件を外したら、この式(2)は、恒等式にはならなくなります。
 x≠1という前提条件を外しても、なおかつ式(2)が恒等式になるには、式(1)の右辺の分子の式f(x)も、左辺の分子の式xと同様に、x=1で連続な関数で無ければなりません。(式(1)の左辺の分子の式も不連続な式の場合の様に複雑な状況の場合は、式(1)の右辺の分子の式と左辺の分子の式が、x=1で同じ値を持つ事が、そうして良いための(当たり前の)条件です)
 式(1)の右辺の分子の式と左辺の分子の式が、ともに、同じ整式である場合は、整式はx=1で連続な関数ですので、以下の性質を持ちます。連続な関数においては、xが1に限りなく近づく場合の関数の値は、x=1での関数の値に等しい。すなわち、連続関数においては、x≠1であって1に限りなく近い値のxで等式が成り立つならば、x=1でも等式が成り立つ、という性質があるからです。

(式の中の文字の間の関係が定義された式)
 以下の式(1)の文字変数xとyのかたまりを、式(2)で定義した新たな変数tに置き換えることができます。そうすることで、式(1)を式(3)に書き直した、変数xとyとtで記述された以下の式(3)も恒等式です。
 4x+2y=2x+2(x+y), (1)恒等式
 x+y≡t, (2)変数tを定義する式
 4x+2y=2x+2t, (3)恒等式
等式(2)の下で、等式(3)が恒等式です。

 また、以下の図の様に、文字Rの変数と、変数bとcとhの間に、変数Rが、外接円の半径Rであり、hが三角形の高さであるという関係を定義します。そのように、変数bとcとhとRの間の関係が定義されている以下の式も、R≠0という前提条件の下に、恒等式です。(変数Rが変数bとcとhの関数であるとみなすのです。また、hも三角形の高さという意味を持ち、h≦b,h≦cという制約条件があります。)

このように、恒等式は、(明確に示された前提条件の下に)通常の定理で与えられる等式も、恒等式です。
 もう1例:
mが整数であるという前提条件のもとに、
 sin(πm)=0,
は恒等式です。


【恒等式の重要な性質】
 恒等式は、式の中の文字にどのような数を代入しても成り立つ等式ですので、以下の重要な性質を持っています。
①恒等式の左辺の式と右辺の式は等価な式である。
②数式の計算において、恒等式の左辺の式が現れた場合に、新たな条件を追加せずに、その左辺の式は右辺の式に変換できる。
③その逆に、右辺の式が現れた場合にも、新たな条件を追加せずに、その右辺の式を左辺の式に変換できる。

という性質を持っています。

【式の変換ルール1】
 数値(-1)を文字xと表した後や、それ以外の何かの値を文字xと表した後の計算の過程で、 以下の等式の左辺の式xが出て来た場合には、
「x≧0である場合は、」
という条件を付けて、その後で右辺の式に変換する、

という数式の変換ルールがある。
その条件を付けずに右辺の式に変換することはできない。


ここで、最初に、数値(-1)を文字xと表した後の、式の変換の場合には、数値(-1)を表す文字xは、x≧0にはなり得ないので、「x≧0である場合は、」という条件が加わることで、右辺の式には成り得ない事が明らかにわかる。
(根号の中の式≧0の条件が必要な理由は、ここをクリックした先のサイト「実数の指数法則と複素数の指数法則」を参照のこと)

【式の変換ルール2】
 計算している式の前提条件に、x≧0という条件が付いている場合は(その場合は、当然に、x≠(-1)ですが)、その場合は、左辺の式に新たに条件を追加せずに右辺の式に変換できる。その場合は、その前提条件の下に、上の等式が恒等式だからです。

【式の変換ルール3】

 数式の計算において、以下の式の左辺の式が現れた場合に、新たな条件を加えずに、右辺の式の変換することができる。

その理由は、この式の左辺も、右辺も、根号の中にxが入っているので、x≧0 の制約条件が付く。
更に、左辺も右辺も、分母にxがあるので、x≠0 の制約条件が付く。
左辺と右辺とで、xに対する制約条件が等価なので、新たな条件を加えずに、左辺の式を右辺の式に変換できる。そのように、この等式には、恒等式の持つ重要な性質が備わっている。そのため、
この等式は(恒等式では無いが)恒等式(に近い式)とみなしても良いと考える。

【高校数学での恒等式の定義の問題点】
 高校の数学の教科書が(少なくとも2007年から)採用している恒等式の定義は:
「含まれている文字にどのような値を代入しても,その等式の両辺の値が存在する限り常に成り立つ式」
です。(大学数学での恒等式の定義と異なります)
その定義からすると、以下の等式も恒等式ということになってしまう。


しかし、それはおかしい。
なぜならば、上の式の左辺で表したxの式を直ちに右辺の式に変換するのは、【式の変換ルール1】に反するからです。
「x≧0の場合に限り」
という条件を加えてから、右辺の式に変換しなければなりません。
このように、上の等式には、恒等式の持つ「新たな条件を追加せずに式を変換できる」という重要な性質がありません。その性質が無い等式を恒等式だとするのは、とてもおかしな事だと思います。


(注意)大学数学の恒等式の定義は、上の等式を恒等式と定義している高校教科書の定義とは明らかに異なる異端の論理です。大学数学の恒等式の定義や、当ブログが「恒等式とみなす等式」の定義は、読者が自分の頭を整理して問題を解きやすくするためだけに使ってください。
 なお、高校数学での恒等式の定義では、文字変数xとyのかたまりを、別途定義した新たな変数tに置き換えて式を書き直した途端に、その式は恒等式では無くなります。
 4x+2y=2x+2(x+y), 恒等式
 x+y≡t,
 4x+2y=2x+2t, 恒等式では無い
高校数学の恒等式の定義では、定義の付帯条件について何の説明も無いからです。しかし、大学数学の恒等式の定義ではそのような事にはなりません。
 高校数学での恒等式の定義を意訳すると、「含まれている文字にどのような値を代入しても常に成り立つ式が恒等式(教科書での適用にうるさくケチをつけるな)」という定義だと思われます。くれぐれも、高校の生徒や先生が、高校教科書の「恒等式」の定義を使っていることに異論を唱えないでください。高校数学から異端審問されないためです。ガリレオガリレイが太陽は止まっていて地球の方が動いていていると言ったらどのような目に合ったか、歴史から学んでください。くれぐれも、空気を読んで口をつぐんでください。

 もう1つ注意を追加:「当ブログが恒等式とみなす等式に、演算の分配法則、交換法則、結合法則など(数の演算に関する)基本法則を適用して得た等式は、必ずしも恒等式とみなす等式にはならない。」ことに注意する必要があります。
 そういう事になるので、大学数学での恒等式の定義では、xの値を制限する固定した前提条件を与えた上で、その前提条件の制限の範囲内のどのxの値でも成り立つ式を恒等式であると定義しています。その定義であるならば、式を変形しても、恒等式であるという性質が変わらないからです。

以下の等式は恒等式とみなせます。


この式の左辺も、右辺も、x≠1, x≠-1, の制約が付きます。左辺も右辺もxに対する制約条件が等価なので、
この等式は恒等式とみなして良い等式です。

 しかし、以下の等式は恒等式とはみなせません。


この等式の右辺には、x≠1, x≠-1, の制約が付いていますが、左辺には、x≠1 の制約しかないからです。
左辺と右辺が、xに対する制約条件が等価では無いので、
この等式は恒等式とみなすことができません。
 この等式が成り立つと表現したい場合は、「分数式として等しい」と表現することができます。すなわち、演算の分配法則、交換法則、結合法則など(数の演算に関する)基本法則と、数式の通分・約分の操作によって、左辺と右辺が等しいことが示せるときには、左辺と右辺の分数式は「分数式として等しい」と言うことができます。

【式の変換ルール4(0で割り算しない)】

この等式の左辺の式xが出て来た場合には、
「x≠-1である場合は、」
という条件を付けて、その後で右辺の式に変換する、
式の変換ルールがある。その条件を付けずに右辺の式に変換することはできない。(x+1)という式は、xのその値で0になる。式は0で割り算してはいけないので、この条件を付けて式を変換しなければならない。
 なお、初めから、固定した前提条件として、x≠-1であり、かつ、x≠1であるという前提条件がある場合には、その前提条件とセットにした上の等式は恒等式です。

以下の式については:


x≠yの場合に、

です。
「x≠yの場合に、」という条件を付けずに、式を変換してはいけません。その理由は、


という等式は恒等式とはみなせないからです。
 次に、この式のあとでは、新たな条件を追加せずに、以下の式に変換できます。


上の等式が恒等式とみなせる等式だからです。
 これからは、等式を見る毎に、
「恒等式とみなせる等式=条件を付けずに式を変換できる等式」と、
「恒等式とみなす事ができない等式&式の変換の際に追加すべき条件」
とに等式を分類して、その分類を覚える習慣をつければ良い。そして、その知識を、問題をスムーズに解くために活用すると良いと思います。その積み重ねが数学の問題がスムーズに解けるか解けないかの差を生むと思います。

【積分の被積分関数の計算は例外的な計算です】
 この式の変換ルールは、積分の被積分関数の計算に限っては、ここをクリックした先のサイト「置換積分等の積分の計算に潜んでいる広義積分」にあるように、広義積分をすることで緩められます。しかし、積分の被積分関数の変換以外の通常の式の変換では、「式の変換ルール4」を守らなければなりません。

(恒等式の例1)
 以下の関数f(x)及び逆関数g(y)では、前提条件をx≧0,y≧0,とした場合は、x=g(f(x))という式が、以下のように変換され、恒等式であることがわかる。

上記のように、x=xという恒等式になる。

(恒等式の例2)
円の方程式 x+y=1, において、前提条件をy≧0,とした場合は、
その解が、
y=f(x)
という陰関数 f(x)になる。
円の方程式のyに、その陰関数 f(x)を代入した式は、式の左辺も恒等的に1になる。
+(f(x))=1,

すなわち、円の方程式は、前提条件をy≧0,とした場合は、yにその陰関数f(x)を代入した式は、1=1という恒等式になる。

「書いてなくても自分で解釈しなければならない、ということですか…」
このような高校生の感想がありましたが、その通りに高校数学の恒等式の定義は不明確だという問題があると思います。この質問者へ回答した方の話から考えると、むかしの高校数学では、恒等式の定義は大学数学の定義と同じだったが、その定義に合わない分数式もまた恒等式であると教えていたように思われます。
 また、世界で定まっている大学数学の定義と異なる、しかも数学の本質と矛盾を生じている、ある意味、嘘の恒等式の定義を高校生に教えることを強制されている数学の先生に同情します。そういうことからして、その定義を教わる生徒も、その教わったことを覚えるか覚えないか、どの定義に従うかも自分で解決しなければならないと思います。

 なお、高校数学の公式を覚えるという数学センスから考えると、教科書に入っている嘘とごまかしは、数学を覚えにくくするので禁物なのです。なぜかと言うと、数学の公式を覚えるというのは公式を導き出す小さなヒントだけ覚えて、そのヒントから公式全体を導き出せるようにすることだからです。
 小さなヒントだけ覚えれば良いので多くの公式を覚える量が本当に少なくて済み、覚えるのが楽になります。その様にして多くの公式を全て導き出して使うのです。そうすると、とても多くの公式を全て覚えているのと同じ結果になります。
 しかし、嘘とごまかしによっては、そこから正しい公式全体を導き出せ無くなります。そのような不純物(嘘、ごまかし)が心に入ると、もう数学の力は失われてしまい、何もわからなくなります。


リンク:
関数で表した恒等式とは何
高校数学の目次

2021年7月5日月曜日

サイン分の1の積分

【問1】 以下の不定積分を求めよ。


【解答】特殊な解き方
この問題を、
cos(t)=xとする変数tを導入して以下の様に解く特殊な解き方を説明したいと思います。

こうしておいて、以下のように、次の計算の準備をします。

こうして準備した上で、
以下の積分の計算をします。


(解答おわり)

なお、以下の式にも変換できます。


ただし、分母が0で無い場合に限り等式が成り立つ。

《別解》
「積分計算と相性が良い三角関数の積の分数の分解の公式」を用いて、以下のように計算することもできます。

ここで、「積分計算と相性が良い三角関数の積の分数の分解の公式」を適用する。

(別解おわり)

(補足1)
 なお、この積分では、変数変換をして、
被積分関数を、
1/sin(t)の t による積分に変換して計算をしました。
この計算で求めた以下の式は公式として覚えておくと便利だと思います。
この形の式は公式として覚えやすいと思います。
分母がcos(x)の積分の場合は、このような単純な形では表せませんので、分母がsin(x)の場合のこの積分の公式が際立っているので記憶に留めるのが良いと思います。
 なお、この積分は、以下の式で表すこともできます。

この式の形の公式ならば、分母がcos(x)の式の積分の場合の公式も似た形で表せます。
(補足1おわり)

(補足2)
この問題の変数tの解の式の不定積分で、
正確に不定積分を記述すると:
(1)-(π/2)<(t/2)<0 での式
(2)0<(t/2)<(π/2) での式
(3)(π/2)<(t/2)<(2π/2) での式
(4)(2π/2)<(t/2)<(3π/2) での式
・・・
という、異なる開区間の定義域で定義された無限個の不定積分の集まりの解であると書くのが正確な解の記述です。

(各不定積分の積分定数Cは、各不定積分毎に異なります。)


 この不定積分F(x)を使って
定積分
F(b)-F(a)
を計算する場合は、
各々の不定積分F(x)が定義されている開区間をはみだして定積分してはいけません。
異なる不定積分F(x)の定義域にまたがって
F(b)-F(a)
を計算してはいけないのです。

 積分が無限大まで進んで次に無限大を引き算して再び有限に戻って辻褄があうようにも見えますが、それは見せかけです。無限大から無限大を引き算して0になるという計算をしてはいけないのです。
(なお、不定積分は必ず1つながりに連続な関数になります。不定積分が1つながりに連続で無い点をまたがって関数を定積分しないようにしましょう。)
(補足2おわり)


リンク:
高校数学の目次