【恒等式の定義】
式の中の文字にどのような数を代入しても成り立つ等式を恒等式と呼ぶ。「『数学小辞典』(矢野健太郎)より」
【高校数学での恒等式の定義の問題点】
高校の数学の教科書が(少なくとも2007年から)採用している恒等式の定義は:
「含まれている文字にどのような値を代入しても,その等式の両辺の値が存在する限り常に成り立つ式」
です。(大学数学での恒等式の定義と異なります)
■高校数学の参考書「大学への数学Ⅰ&A」の231ページでは、大学数学での定義の方が教えられている。
■「方程式と恒等式の違い」のサイトでも、大学数学の定義の方が教えられている。
以下では、大学数学での恒等式の定義の話を続けます。
(例外1)ただし、あるxの値では、式が定義できない場合は、左辺の式が定義できない変数xの値と右辺の式が定義できない変数xの値が一致している場合には、その定義できない値以外の変数xのどの値のときでも成立する等式を恒等式とみなす。
(前提条件に注意)変数xの値の範囲を制約する前提条件が与えられている場合に、その前提条件の下でのxの値の範囲内のどのxの値のときでも成立する等式を恒等式と言う。(恒等式の変数xは、通常は、xは実数であるという暗黙の前提条件があることが多いです。)
(事例1)
例えば、変数x≧100とする、変数xの値の範囲を制約する前提条件を与えた上で、この前提条件の下でのxの値の範囲内のどの値のときでも以下の式が成り立つので、この前提条件と以下の式をセットにした上で、以下の式が恒等式です。(大学数学での恒等式の定義)
(事例2)
以下の関数f(x)がある場合に:
f(x)=1000, (x=1)
f(x)=x, (x≠1)
x≠1という前提条件の下に、以下の式(1)は恒等式です。
(注意)この恒等式(1)の左右の辺に(x-1)を掛け算した以下の式(2)も、最初に定めた前提条件の下に恒等式です。
しかし、x≠1という前提条件を外したら、この式(2)は、恒等式にはならなくなります。
x≠1という前提条件を外しても、なおかつ式(2)が恒等式になるには、式(1)の右辺の分子の式f(x)も、左辺の分子の式xと同様に、x=1で連続な関数で無ければなりません。(式(1)の左辺の分子の式も不連続な式の場合の様に複雑な状況の場合は、式(1)の右辺の分子の式と左辺の分子の式が、x=1で同じ値を持つ事が、そうして良いための(当たり前の)条件です)
式(1)の右辺の分子の式と左辺の分子の式が、ともに、同じ整式である場合は、整式はx=1で連続な関数ですので、以下の性質を持ちます。連続な関数においては、xが1に限りなく近づく場合の関数の値は、x=1での関数の値に等しい。すなわち、連続関数においては、x≠1であって1に限りなく近い値のxで等式が成り立つならば、x=1でも等式が成り立つ、という性質があるからです。
(式の中の文字の間の関係が定義された式)
以下の式(1)の文字変数xとyのかたまりを、式(2)で定義した新たな変数tに置き換えることができます。そうすることで、式(1)を式(3)に書き直した、変数xとyとtで記述された以下の式(3)も恒等式です。
4x+2y=2x+2(x+y), (1)恒等式
x+y≡t, (2)変数tを定義する式
4x+2y=2x+2t, (3)恒等式
等式(2)の下で、等式(3)が恒等式です。
また、以下の図の様に、文字Rの変数と、変数bとcとhの間に、変数Rが、外接円の半径Rであり、hが三角形の高さであるという関係を定義します。そのように、変数bとcとhとRの間の関係が定義されている以下の式も、R≠0という前提条件の下に、恒等式です。(変数Rが変数bとcとhの関数であるとみなすのです。また、hも三角形の高さという意味を持ち、h≦b,h≦cという制約条件があります。)
このように、恒等式は、(明確に示された前提条件の下に)通常の定理で与えられる等式も、恒等式です。
もう1例:
mが整数であるという前提条件のもとに、
sin(πm)=0,
は恒等式です。
【恒等式の重要な性質】
恒等式は、式の中の文字にどのような数を代入しても成り立つ等式ですので、以下の重要な性質を持っています。
①恒等式の左辺の式と右辺の式は等価な式である。
②数式の計算において、恒等式の左辺の式が現れた場合に、新たな条件を追加せずに、その左辺の式は右辺の式に変換できる。
③その逆に、右辺の式が現れた場合にも、新たな条件を追加せずに、その右辺の式を左辺の式に変換できる。
という性質を持っています。
【式の変換ルール1】
数値(-1)を文字xと表した後や、それ以外の何かの値を文字xと表した後の計算の過程で、 以下の等式の左辺の式xが出て来た場合には、
「x≧0である場合は、」
という条件を付けて、その後で右辺の式に変換する、
という数式の変換ルールがある。
その条件を付けずに右辺の式に変換することはできない。
ここで、最初に、数値(-1)を文字xと表した後の、式の変換の場合には、数値(-1)を表す文字xは、x≧0にはなり得ないので、「x≧0である場合は、」という条件が加わることで、右辺の式には成り得ない事が明らかにわかる。
(根号の中の式≧0の条件が必要な理由は、ここをクリックした先のサイト「実数の指数法則と複素数の指数法則」を参照のこと)
【式の変換ルール2】
計算している式の前提条件に、x≧0という条件が付いている場合は(その場合は、当然に、x≠(-1)ですが)、その場合は、左辺の式に新たに条件を追加せずに右辺の式に変換できる。その場合は、その前提条件の下に、上の等式が恒等式だからです。
【式の変換ルール3】
数式の計算において、以下の式の左辺の式が現れた場合に、新たな条件を加えずに、右辺の式の変換することができる。
その理由は、この式の左辺も、右辺も、根号の中にxが入っているので、x≧0 の制約条件が付く。
更に、左辺も右辺も、分母にxがあるので、x≠0 の制約条件が付く。
左辺と右辺とで、xに対する制約条件が等価なので、新たな条件を加えずに、左辺の式を右辺の式に変換できる。そのように、この等式には、恒等式の持つ重要な性質が備わっている。そのため、
この等式は(恒等式では無いが)恒等式(に近い式)とみなしても良いと考える。
【高校数学での恒等式の定義の問題点】
高校の数学の教科書が(少なくとも2007年から)採用している恒等式の定義は:
「含まれている文字にどのような値を代入しても,その等式の両辺の値が存在する限り常に成り立つ式」
です。(大学数学での恒等式の定義と異なります)
その定義からすると、以下の等式も恒等式ということになってしまう。
しかし、それはおかしい。
なぜならば、上の式の左辺で表したxの式を直ちに右辺の式に変換するのは、【式の変換ルール1】に反するからです。
「x≧0の場合に限り」
という条件を加えてから、右辺の式に変換しなければなりません。
このように、上の等式には、恒等式の持つ「新たな条件を追加せずに式を変換できる」という重要な性質がありません。その性質が無い等式を恒等式だとするのは、とてもおかしな事だと思います。
(注意)大学数学の恒等式の定義は、上の等式を恒等式と定義している高校教科書の定義とは明らかに異なる異端の論理です。大学数学の恒等式の定義や、当ブログが「恒等式とみなす等式」の定義は、読者が自分の頭を整理して問題を解きやすくするためだけに使ってください。
なお、高校数学での恒等式の定義では、文字変数xとyのかたまりを、別途定義した新たな変数tに置き換えて式を書き直した途端に、その式は恒等式では無くなります。
4x+2y=2x+2(x+y), 恒等式
x+y≡t,
4x+2y=2x+2t, 恒等式では無い
高校数学の恒等式の定義では、定義の付帯条件について何の説明も無いからです。しかし、大学数学の恒等式の定義ではそのような事にはなりません。
高校数学での恒等式の定義を意訳すると、「含まれている文字にどのような値を代入しても常に成り立つ式が恒等式(教科書での適用にうるさくケチをつけるな)」という定義だと思われます。くれぐれも、高校の生徒や先生が、高校教科書の「恒等式」の定義を使っていることに異論を唱えないでください。高校数学から異端審問されないためです。ガリレオガリレイが太陽は止まっていて地球の方が動いていていると言ったらどのような目に合ったか、歴史から学んでください。くれぐれも、空気を読んで口をつぐんでください。
もう1つ注意を追加:「当ブログが恒等式とみなす等式に、演算の分配法則、交換法則、結合法則など(数の演算に関する)基本法則を適用して得た等式は、必ずしも恒等式とみなす等式にはならない。」ことに注意する必要があります。
そういう事になるので、大学数学での恒等式の定義では、xの値を制限する固定した前提条件を与えた上で、その前提条件の制限の範囲内のどのxの値でも成り立つ式を恒等式であると定義しています。その定義であるならば、式を変形しても、恒等式であるという性質が変わらないからです。
以下の等式は恒等式とみなせます。
この式の左辺も、右辺も、x≠1, x≠-1, の制約が付きます。左辺も右辺もxに対する制約条件が等価なので、
この等式は恒等式とみなして良い等式です。
しかし、以下の等式は恒等式とはみなせません。
この等式の右辺には、x≠1, x≠-1, の制約が付いていますが、左辺には、x≠1 の制約しかないからです。
左辺と右辺が、xに対する制約条件が等価では無いので、
この等式は恒等式とみなすことができません。
この等式が成り立つと表現したい場合は、「分数式として等しい」と表現することができます。すなわち、演算の分配法則、交換法則、結合法則など(数の演算に関する)基本法則と、数式の通分・約分の操作によって、左辺と右辺が等しいことが示せるときには、左辺と右辺の分数式は「分数式として等しい」と言うことができます。
【式の変換ルール4(0で割り算しない)】
この等式の左辺の式xが出て来た場合には、
「x≠-1である場合は、」
という条件を付けて、その後で右辺の式に変換する、式の変換ルールがある。その条件を付けずに右辺の式に変換することはできない。(x+1)という式は、xのその値で0になる。式は0で割り算してはいけないので、この条件を付けて式を変換しなければならない。
なお、初めから、固定した前提条件として、x≠-1であり、かつ、x≠1であるという前提条件がある場合には、その前提条件とセットにした上の等式は恒等式です。
以下の式については:
x≠yの場合に、
です。
「x≠yの場合に、」という条件を付けずに、式を変換してはいけません。その理由は、
という等式は恒等式とはみなせないからです。
次に、この式のあとでは、新たな条件を追加せずに、以下の式に変換できます。
上の等式が恒等式とみなせる等式だからです。
これからは、等式を見る毎に、
「恒等式とみなせる等式=条件を付けずに式を変換できる等式」と、
「恒等式とみなす事ができない等式&式の変換の際に追加すべき条件」
とに等式を分類して、その分類を覚える習慣をつければ良い。そして、その知識を、問題をスムーズに解くために活用すると良いと思います。その積み重ねが数学の問題がスムーズに解けるか解けないかの差を生むと思います。
【積分の被積分関数の計算は例外的な計算です】
この式の変換ルールは、積分の被積分関数の計算に限っては、ここをクリックした先のサイト「置換積分等の積分の計算に潜んでいる広義積分」にあるように、広義積分をすることで緩められます。しかし、積分の被積分関数の変換以外の通常の式の変換では、「式の変換ルール4」を守らなければなりません。
(恒等式の例1)
以下の関数f(x)及び逆関数g(y)では、前提条件をx≧0,y≧0,とした場合は、x=g(f(x))という式が、以下のように変換され、恒等式であることがわかる。
上記のように、x=xという恒等式になる。
(恒等式の例2)
円の方程式 x2+y2=1, において、前提条件をy≧0,とした場合は、
その解が、
y=f(x)
という陰関数 f(x)になる。
円の方程式のyに、その陰関数 f(x)を代入した式は、式の左辺も恒等的に1になる。
x2+(f(x))2=1,
すなわち、円の方程式は、前提条件をy≧0,とした場合は、yにその陰関数f(x)を代入した式は、1=1という恒等式になる。
「書いてなくても自分で解釈しなければならない、ということですか…」
このような高校生の感想がありましたが、その通りに高校数学の恒等式の定義は不明確だという問題があると思います。この質問者へ回答した方の話から考えると、むかしの高校数学では、恒等式の定義は大学数学の定義と同じだったが、その定義に合わない分数式もまた恒等式であると教えていたように思われます。
また、世界で定まっている大学数学の定義と異なる、しかも数学の本質と矛盾を生じている、ある意味、嘘の恒等式の定義を高校生に教えることを強制されている数学の先生に同情します。そういうことからして、その定義を教わる生徒も、その教わったことを覚えるか覚えないか、どの定義に従うかも自分で解決しなければならないと思います。
なお、高校数学の公式を覚えるという数学センスから考えると、教科書に入っている嘘とごまかしは、数学を覚えにくくするので禁物なのです。なぜかと言うと、数学の公式を覚えるというのは公式を導き出す小さなヒントだけ覚えて、そのヒントから公式全体を導き出せるようにすることだからです。
小さなヒントだけ覚えれば良いので多くの公式を覚える量が本当に少なくて済み、覚えるのが楽になります。その様にして多くの公式を全て導き出して使うのです。そうすると、とても多くの公式を全て覚えているのと同じ結果になります。
しかし、嘘とごまかしによっては、そこから正しい公式全体を導き出せ無くなります。そのような不純物(嘘、ごまかし)が心に入ると、もう数学の力は失われてしまい、何もわからなくなります。
リンク:
関数で表した恒等式とは何
高校数学の目次
式の中の文字にどのような数を代入しても成り立つ等式を恒等式と呼ぶ。「『数学小辞典』(矢野健太郎)より」
【高校数学での恒等式の定義の問題点】
高校の数学の教科書が(少なくとも2007年から)採用している恒等式の定義は:
「含まれている文字にどのような値を代入しても,その等式の両辺の値が存在する限り常に成り立つ式」
です。(大学数学での恒等式の定義と異なります)
■高校数学の参考書「大学への数学Ⅰ&A」の231ページでは、大学数学での定義の方が教えられている。
■「方程式と恒等式の違い」のサイトでも、大学数学の定義の方が教えられている。
以下では、大学数学での恒等式の定義の話を続けます。
(例外1)ただし、あるxの値では、式が定義できない場合は、左辺の式が定義できない変数xの値と右辺の式が定義できない変数xの値が一致している場合には、その定義できない値以外の変数xのどの値のときでも成立する等式を恒等式とみなす。
(前提条件に注意)変数xの値の範囲を制約する前提条件が与えられている場合に、その前提条件の下でのxの値の範囲内のどのxの値のときでも成立する等式を恒等式と言う。(恒等式の変数xは、通常は、xは実数であるという暗黙の前提条件があることが多いです。)
(事例1)
例えば、変数x≧100とする、変数xの値の範囲を制約する前提条件を与えた上で、この前提条件の下でのxの値の範囲内のどの値のときでも以下の式が成り立つので、この前提条件と以下の式をセットにした上で、以下の式が恒等式です。(大学数学での恒等式の定義)
(事例2)
以下の関数f(x)がある場合に:
f(x)=1000, (x=1)
f(x)=x, (x≠1)
x≠1という前提条件の下に、以下の式(1)は恒等式です。
(注意)この恒等式(1)の左右の辺に(x-1)を掛け算した以下の式(2)も、最初に定めた前提条件の下に恒等式です。
しかし、x≠1という前提条件を外したら、この式(2)は、恒等式にはならなくなります。
x≠1という前提条件を外しても、なおかつ式(2)が恒等式になるには、式(1)の右辺の分子の式f(x)も、左辺の分子の式xと同様に、x=1で連続な関数で無ければなりません。(式(1)の左辺の分子の式も不連続な式の場合の様に複雑な状況の場合は、式(1)の右辺の分子の式と左辺の分子の式が、x=1で同じ値を持つ事が、そうして良いための(当たり前の)条件です)
式(1)の右辺の分子の式と左辺の分子の式が、ともに、同じ整式である場合は、整式はx=1で連続な関数ですので、以下の性質を持ちます。連続な関数においては、xが1に限りなく近づく場合の関数の値は、x=1での関数の値に等しい。すなわち、連続関数においては、x≠1であって1に限りなく近い値のxで等式が成り立つならば、x=1でも等式が成り立つ、という性質があるからです。
(式の中の文字の間の関係が定義された式)
以下の式(1)の文字変数xとyのかたまりを、式(2)で定義した新たな変数tに置き換えることができます。そうすることで、式(1)を式(3)に書き直した、変数xとyとtで記述された以下の式(3)も恒等式です。
4x+2y=2x+2(x+y), (1)恒等式
x+y≡t, (2)変数tを定義する式
4x+2y=2x+2t, (3)恒等式
等式(2)の下で、等式(3)が恒等式です。
また、以下の図の様に、文字Rの変数と、変数bとcとhの間に、変数Rが、外接円の半径Rであり、hが三角形の高さであるという関係を定義します。そのように、変数bとcとhとRの間の関係が定義されている以下の式も、R≠0という前提条件の下に、恒等式です。(変数Rが変数bとcとhの関数であるとみなすのです。また、hも三角形の高さという意味を持ち、h≦b,h≦cという制約条件があります。)
このように、恒等式は、(明確に示された前提条件の下に)通常の定理で与えられる等式も、恒等式です。
もう1例:
mが整数であるという前提条件のもとに、
sin(πm)=0,
は恒等式です。
【恒等式の重要な性質】
恒等式は、式の中の文字にどのような数を代入しても成り立つ等式ですので、以下の重要な性質を持っています。
①恒等式の左辺の式と右辺の式は等価な式である。
②数式の計算において、恒等式の左辺の式が現れた場合に、新たな条件を追加せずに、その左辺の式は右辺の式に変換できる。
③その逆に、右辺の式が現れた場合にも、新たな条件を追加せずに、その右辺の式を左辺の式に変換できる。
という性質を持っています。
【式の変換ルール1】
数値(-1)を文字xと表した後や、それ以外の何かの値を文字xと表した後の計算の過程で、 以下の等式の左辺の式xが出て来た場合には、
「x≧0である場合は、」
という条件を付けて、その後で右辺の式に変換する、
という数式の変換ルールがある。
その条件を付けずに右辺の式に変換することはできない。
ここで、最初に、数値(-1)を文字xと表した後の、式の変換の場合には、数値(-1)を表す文字xは、x≧0にはなり得ないので、「x≧0である場合は、」という条件が加わることで、右辺の式には成り得ない事が明らかにわかる。
(根号の中の式≧0の条件が必要な理由は、ここをクリックした先のサイト「実数の指数法則と複素数の指数法則」を参照のこと)
【式の変換ルール2】
計算している式の前提条件に、x≧0という条件が付いている場合は(その場合は、当然に、x≠(-1)ですが)、その場合は、左辺の式に新たに条件を追加せずに右辺の式に変換できる。その場合は、その前提条件の下に、上の等式が恒等式だからです。
【式の変換ルール3】
数式の計算において、以下の式の左辺の式が現れた場合に、新たな条件を加えずに、右辺の式の変換することができる。
その理由は、この式の左辺も、右辺も、根号の中にxが入っているので、x≧0 の制約条件が付く。
更に、左辺も右辺も、分母にxがあるので、x≠0 の制約条件が付く。
左辺と右辺とで、xに対する制約条件が等価なので、新たな条件を加えずに、左辺の式を右辺の式に変換できる。そのように、この等式には、恒等式の持つ重要な性質が備わっている。そのため、
この等式は(恒等式では無いが)恒等式(に近い式)とみなしても良いと考える。
【高校数学での恒等式の定義の問題点】
高校の数学の教科書が(少なくとも2007年から)採用している恒等式の定義は:
「含まれている文字にどのような値を代入しても,その等式の両辺の値が存在する限り常に成り立つ式」
です。(大学数学での恒等式の定義と異なります)
その定義からすると、以下の等式も恒等式ということになってしまう。
しかし、それはおかしい。
なぜならば、上の式の左辺で表したxの式を直ちに右辺の式に変換するのは、【式の変換ルール1】に反するからです。
「x≧0の場合に限り」
という条件を加えてから、右辺の式に変換しなければなりません。
このように、上の等式には、恒等式の持つ「新たな条件を追加せずに式を変換できる」という重要な性質がありません。その性質が無い等式を恒等式だとするのは、とてもおかしな事だと思います。
(注意)大学数学の恒等式の定義は、上の等式を恒等式と定義している高校教科書の定義とは明らかに異なる異端の論理です。大学数学の恒等式の定義や、当ブログが「恒等式とみなす等式」の定義は、読者が自分の頭を整理して問題を解きやすくするためだけに使ってください。
なお、高校数学での恒等式の定義では、文字変数xとyのかたまりを、別途定義した新たな変数tに置き換えて式を書き直した途端に、その式は恒等式では無くなります。
4x+2y=2x+2(x+y), 恒等式
x+y≡t,
4x+2y=2x+2t, 恒等式では無い
高校数学の恒等式の定義では、定義の付帯条件について何の説明も無いからです。しかし、大学数学の恒等式の定義ではそのような事にはなりません。
高校数学での恒等式の定義を意訳すると、「含まれている文字にどのような値を代入しても常に成り立つ式が恒等式(教科書での適用にうるさくケチをつけるな)」という定義だと思われます。くれぐれも、高校の生徒や先生が、高校教科書の「恒等式」の定義を使っていることに異論を唱えないでください。高校数学から異端審問されないためです。ガリレオガリレイが太陽は止まっていて地球の方が動いていていると言ったらどのような目に合ったか、歴史から学んでください。くれぐれも、空気を読んで口をつぐんでください。
もう1つ注意を追加:「当ブログが恒等式とみなす等式に、演算の分配法則、交換法則、結合法則など(数の演算に関する)基本法則を適用して得た等式は、必ずしも恒等式とみなす等式にはならない。」ことに注意する必要があります。
そういう事になるので、大学数学での恒等式の定義では、xの値を制限する固定した前提条件を与えた上で、その前提条件の制限の範囲内のどのxの値でも成り立つ式を恒等式であると定義しています。その定義であるならば、式を変形しても、恒等式であるという性質が変わらないからです。
以下の等式は恒等式とみなせます。
この式の左辺も、右辺も、x≠1, x≠-1, の制約が付きます。左辺も右辺もxに対する制約条件が等価なので、
この等式は恒等式とみなして良い等式です。
しかし、以下の等式は恒等式とはみなせません。
この等式の右辺には、x≠1, x≠-1, の制約が付いていますが、左辺には、x≠1 の制約しかないからです。
左辺と右辺が、xに対する制約条件が等価では無いので、
この等式は恒等式とみなすことができません。
この等式が成り立つと表現したい場合は、「分数式として等しい」と表現することができます。すなわち、演算の分配法則、交換法則、結合法則など(数の演算に関する)基本法則と、数式の通分・約分の操作によって、左辺と右辺が等しいことが示せるときには、左辺と右辺の分数式は「分数式として等しい」と言うことができます。
【式の変換ルール4(0で割り算しない)】
この等式の左辺の式xが出て来た場合には、
「x≠-1である場合は、」
という条件を付けて、その後で右辺の式に変換する、式の変換ルールがある。その条件を付けずに右辺の式に変換することはできない。(x+1)という式は、xのその値で0になる。式は0で割り算してはいけないので、この条件を付けて式を変換しなければならない。
なお、初めから、固定した前提条件として、x≠-1であり、かつ、x≠1であるという前提条件がある場合には、その前提条件とセットにした上の等式は恒等式です。
以下の式については:
x≠yの場合に、
です。
「x≠yの場合に、」という条件を付けずに、式を変換してはいけません。その理由は、
という等式は恒等式とはみなせないからです。
次に、この式のあとでは、新たな条件を追加せずに、以下の式に変換できます。
上の等式が恒等式とみなせる等式だからです。
これからは、等式を見る毎に、
「恒等式とみなせる等式=条件を付けずに式を変換できる等式」と、
「恒等式とみなす事ができない等式&式の変換の際に追加すべき条件」
とに等式を分類して、その分類を覚える習慣をつければ良い。そして、その知識を、問題をスムーズに解くために活用すると良いと思います。その積み重ねが数学の問題がスムーズに解けるか解けないかの差を生むと思います。
【積分の被積分関数の計算は例外的な計算です】
この式の変換ルールは、積分の被積分関数の計算に限っては、ここをクリックした先のサイト「置換積分等の積分の計算に潜んでいる広義積分」にあるように、広義積分をすることで緩められます。しかし、積分の被積分関数の変換以外の通常の式の変換では、「式の変換ルール4」を守らなければなりません。
(恒等式の例1)
以下の関数f(x)及び逆関数g(y)では、前提条件をx≧0,y≧0,とした場合は、x=g(f(x))という式が、以下のように変換され、恒等式であることがわかる。
上記のように、x=xという恒等式になる。
(恒等式の例2)
円の方程式 x2+y2=1, において、前提条件をy≧0,とした場合は、
その解が、
y=f(x)
という陰関数 f(x)になる。
円の方程式のyに、その陰関数 f(x)を代入した式は、式の左辺も恒等的に1になる。
x2+(f(x))2=1,
すなわち、円の方程式は、前提条件をy≧0,とした場合は、yにその陰関数f(x)を代入した式は、1=1という恒等式になる。
「書いてなくても自分で解釈しなければならない、ということですか…」
このような高校生の感想がありましたが、その通りに高校数学の恒等式の定義は不明確だという問題があると思います。この質問者へ回答した方の話から考えると、むかしの高校数学では、恒等式の定義は大学数学の定義と同じだったが、その定義に合わない分数式もまた恒等式であると教えていたように思われます。
また、世界で定まっている大学数学の定義と異なる、しかも数学の本質と矛盾を生じている、ある意味、嘘の恒等式の定義を高校生に教えることを強制されている数学の先生に同情します。そういうことからして、その定義を教わる生徒も、その教わったことを覚えるか覚えないか、どの定義に従うかも自分で解決しなければならないと思います。
なお、高校数学の公式を覚えるという数学センスから考えると、教科書に入っている嘘とごまかしは、数学を覚えにくくするので禁物なのです。なぜかと言うと、数学の公式を覚えるというのは公式を導き出す小さなヒントだけ覚えて、そのヒントから公式全体を導き出せるようにすることだからです。
小さなヒントだけ覚えれば良いので多くの公式を覚える量が本当に少なくて済み、覚えるのが楽になります。その様にして多くの公式を全て導き出して使うのです。そうすると、とても多くの公式を全て覚えているのと同じ結果になります。
しかし、嘘とごまかしによっては、そこから正しい公式全体を導き出せ無くなります。そのような不純物(嘘、ごまかし)が心に入ると、もう数学の力は失われてしまい、何もわからなくなります。
リンク:
関数で表した恒等式とは何
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