佐藤の数学教科書「微分」編の勉強
なめらかな曲線の接線は、微分によって初めて正しく定義できる。
(接線を求める式に重根が含まれるとは限らない。)
【難問】2つの放物線
y= x2-2x+2 (式1)
y=-x2+ax+b (式2)
は、それらの交点の1つPで、接線が互いに直交しているものとする。
このとき、放物線(式2)は、a、bの値に無関係な一定の点Qを通ることを証明し、Qの座標を求めよ。
(解答の方針)
「一定の点Qを通る」というような耳慣れない性質を求める問題が出て来ても、あわてずに、
先ず、与えられた全ての条件を数式で表わす。
そうする理由は、その数式の解き方のパターンは限られていて、
この問題は、どの解き方のパターンで解けば良いかが数式から分かるからです。
交点P(c,d)とする。
交点Pのdが式1と式2とであらわされるから、交点P(c,d)を代入した式1=式2が成り立つ
c2-2c+2=-c2+ac+b (式3)
式1の放物線の接線の傾きは、
y’=2x-2 (式4)
式2の放物線の接線の傾きは、
y’=-2x+a (式5)
点Pでの接線が互いに直交する条件は、次式になる。
(2c-2)(-2c+a)=-1 (式6)
点Q(x,y)は放物線(式2)上にあるので、
y=-x2+ax+b (式2)
である。
結局、以下の式の群が得られた。
c2-2c+2=-c2+ac+b (式3)
(2c-2)(-2c+a)=-1 (式6)
y=-x2+ax+b (式2)
これら3つの式を使って問題を解くのは、未知数を順次に減らす計算パターンしか無い。
未知数は、a、b、c、x、yである。
式が3つあるので、未知数を2つ消去できる。
そのように未知数を消去する計算をすると、未知数群(a,b,c)のうちで残った1つの未知数と(x,y)とを含む1つの式が得られる。
そのため、この問題は、その1つの式から(x,y)を求める問題であることがわかる。
すなわち、この問題は、
「1つの未知数に関する1つの式から、未知数の値に無関係な一定の点Q(x,y)の値を求める」
という問題である。
問題を言いかえると、
「(1つの)未知数の値が変化しても一定の値の(x,y)によって式が満足される、そういう値(x,y)を求める」
という問題である。
更に問題を言いかえると、
「(1つの)未知数の値がどのように変化しても式がいつも成り立つようにする(x,y)を求める」
という問題である。
ここまで言いかえると、この問題は、
「(1つの)未知数に関する式を恒等式にする条件を満足する(x,y)を求める」
という問題であることがわかる。
それで、この問題を解くめどが立った。
このように、数式を書けば、その数式の解き方のパターンの数が限られているので、どういう問題であるかの、問題の意味が見えて来る。
(解答)
(1)
交点P(c,d)とする。
交点Pのdが式1と式2とであらわされるから、交点P(c,d)を代入した式1=式2が成り立つ
c2-2c+2=-c2+ac+b (式3)
2c2-(2+a)c+2-b=0 (式7)
(2)
式1の放物線の接線の傾きは、
y’=2x-2 (式4)
式2の放物線の接線の傾きは、
y’=-2x+a (式5)
点Pでの接線が互いに直交する条件は、次式になる。
(2c-2)(-2c+a)=-1 (式6)
-4c2+2ca+4c-2a=-1
-4c2+2ca+4c-2a+1=0
4c2-2ca-4c+2a-1=0
4c2-(2a+4)c+2a-1=0 (式8)
(3)
点Q(x,y)は放物線(式2)上にあるので、
y=-x2+ax+b (式2)
である。
(4)
これらの式を整理して並べると、
2c2-(2+a)c+2-b=0 (式7)
4c2-(2a+4)c+2a-1=0 (式8)
y=-x2+ax+b (式2)
この3つの式から未知数a,b,cのうちの2つの未知数を消去し、残った未知数の式が恒等式になるように(x,y)の値を定める。
ここで、式7と式8から、複雑な式を成す未知数cが消去できることがわかる。
(式7)×2-(式8)を計算する。
4-2b-(2aー1)=0
4-2b-2a+1=0 (式9)
(5)
式2から、
b=y+x2-ax (式2’)
この(式2’)を式9に代入してbを消去する。
4-2(y+x2-ax)-2a+1=0
この式を未知数aに関して整理する。
a(2x-2)+4-2y-2x2+1=0
この式が未知数aに関して恒等式になる条件は、
2x-2=0 (式10)
4-2y-2x2+1=0 (式11)
(5-1)
式10から、
2x=2
x=1 (式12)
(5-2)
式12を式11に代入する。
4-2y-2+1=0
3=2y
y=3/2
よって、
Q(x,y)=(1,3/2)
(解答おわり)
【注意】この問題を解くのに、最初に未知数cを消去したが、他の未知数を消去して最後まで未知数cを残しても、同様に、解くことができる。
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▷円の接線の公式をベクトルの内積で求める
なめらかな曲線の接線は、微分によって初めて正しく定義できる。
(ある直線と曲線の交点を求める式が重根を持つときその直線が必ず接線であるとは言えない。下図の曲線にO点で交わる直線と曲線の交点を求める式は重根を持つ。しかし、ABを通る直線のような方向を向いた直線でもO点で重根を持って曲線と交わる。)
【研究問題】円の接線の公式は既に学習していると思いますが、
接線は、微分によって初めて正しく定義できるので、
改めて、円の接線の公式を微分により導いてみます。
円 x2+y2=1 (式1)
この円の式全体を微分します。
《注意:恒等式の両辺を微分する演算》
方程式の左右の辺をxで微分した式が間違った式にならないためには、以下の条件が必要である。
▷(演算結果の有効性の条件1:微分可能であること)
その計算をする場合は、その得られた式は、全ての項が微分可能な場合のみに、得られた式が有効になる。
上記の(式1)の両辺を微分する場合は、
変数yも微分可能である場合に限って、微分で得られた式が有効である。
(式1)の円の方程式で、x=1の点では、円への接線の傾きが無限大になって、変数yはxで微分できない、その点では、得られた式は無効である。
▷(演算結果の有効性の条件2:元の式が、恒等式であるか、xの恒等式と言えるために、元の式の従属変数yを定めるxの関数f(x) を表現する式であること。
(xの恒等式ではない等式の例)
例えば、
x=5,
という等式の両辺をxで微分した式:
1=0,
は間違った式である。
この等式、x=5, は、変数xに関する恒等式ではない。
この等式の両辺をxで微分した式は無効である。
(xの恒等式だと言える等式の例)
y=2,
という等式の場合は、従属変数yが独立変数xの関数の、
f(x)=2, をあらわす式、すなわち、y≡f(x) と定義されていることを前提にした式である。
y≡f(x) なのだから、
y'≡f'(x) であり、
y'=0, または、
f '(x)=0,
という意味のある式になる。
式の両辺を微分する計算には要注意。
(両辺の微分演算の前提条件おわり)
式1の左右の辺をxで微分して正しい式が得られるのは、以下の理由によります。
方程式1の解で、
y=f(x)
という、(陰関数)f(x)が存在する場合は、
式1の両辺をxで微分した式が正しい式になります。
その理由は、
式1の方程式から、
y=f(x)
という陰関数の解が得られます。
式1のyを、式1から得られる解の1つのy=f(x)という解があらわすxの関数(陰関数)f(x)であるとみなします。yをそういう関数f(x)であるとみなせば、式1は、以下の計算で示すように、yにf(x)を代入した式1に等価な式の左辺が恒等的に1になります。
x2+(f(x))2=1,
すなわち、式1は、yがそういう関数f(x)であるならば、1=1という恒等式を表しています。恒等式ならば、その恒等式をxで微分した結果も0=0になり、その式は正しい式になるからです。
《注意おわり》
式1の微分の際に、
微分の基本公式
(f・g)’=f’・g+f・g’
を使います。
x’・x+x・x’+y’・y+y・y’=1’
x’=1であって、また、1’=0であるから、
上の式は以下の式2になる。
2x+2y・y’=0 (式2)
接点(x,y)での接線の傾きy’は、
(yが0(xが1か-1の場合)で無い場合は)
式2を変形した以下の式3であらわせます。
接点を(x1,y1)とすると、式3は以下の式になります。
接線の式は、
点(x1,y1)は式1を満足するので、
x12+y12=1
∴ y1y+x1x=1
この、円の接線の公式は既に学んでいる接線の式です。
(y=0の場合は)
y’=∞になって、y’が存在しません。
しかし、y’が存在しなくても、
dx/dy=0になって、dx/dyが存在します。
この場合の接線も上の式であらわされて、
x=±1
であらわされる接線があらわせます。
こうして、円の接線の公式が得られました。
【研究問題その2】
楕円の式は高校3年の数学ⅢCで学びますが、高校2年でも、その式だけは覚えていても良いと思います。
楕円 x2/a2+y2/b2=1 (式1)
です。
この楕円の接線の公式は、微分により導けます。
この楕円の式全体を微分します。
その微分の際に、
微分の基本公式 (f・g)’=f’・g+f・g’
を使います。
x’=1であって、また、1’=0だから、
接点(x,y)での接線の傾きy’は、
(yが0で無い場合は)
式2を変形した以下の式であらわせます。
接点を(x1,y1)とすると、式3は以下の式になります。
接線の式は、
点(x1,y1)は式1を満足するので、
(y=0の場合は)
y’=∞になって、y’が存在しません。
しかし、y’が存在しなくても、
dx/dy=0になって、dx/dyが存在します。
(その場合は、最初の計算を変えて、yで式全体を微分する計算を行うことで、改めて上の式を導きます。)
この場合(y=0の場合)の接線も上の式であらわされて、
x=±a
であらわされる接線があらわせます。
こうして、楕円の接線の公式が得られました。
なお、下図のように、接線を持つグラフの集合方が、微分可能な点を持つグラフの集合よりも広いので、上の計算の様に、y≠0の場合と、y=0の場合に分けて計算する必要がありました。
《下図に各種の関数の集合の包含関係をまとめた》
【研究問題その3】
なお、グラフの式の左右の式を同時に微分する場合は、
以下の注意をする必要があります。
yがxで微分可能な場合のみに成り立つ式を、合成関数の微分の公式を使って求めています。
y=f(x)
がxで微分可能で無い場合は、得られた式は使えないと、後で考えます。
また、
y=f(x)
という関数f(x)が存在しない場合は、
式の両辺を微分しても正しい式が得られるための前提条件である、y=f(x)を式に代入して方程式を恒等式にできる、という前提条件が成り立っていない。
そのため、その式の両辺を微分して得た式は間違っていると考えます。
【事例1】
x=0,
という方程式のグラフの場合には、
y=f(x),
という(陰)関数f(x)が存在しません。
その場合は、
微分すべき対象になる関数が存在しないので、
方程式:
x=0,
の両辺をxで微分した式:
1=0,
は、
無効な式になります
事例2を参考にして考えると、
xy座標でのグラフを表す式の両辺をxで微分できる条件は:
「(dy/dx)が存在する点に限る」
という条件があります。
x=0というグラフでは、そのグラフのどの点(x,y)においても、
dy/dxが存在しません。
そのため、x=0の両辺をxで微分することはできない。
【事例2】
以下のグラフ
y=f(x)
は、x=0の位置では変数xで微分不可能です。
このグラフは、
y≦0 : x = −y^2,
y≧0 : x = y^2,
という式であらわせます。
この式の左辺と右辺をxで微分した式は、
x=0
の位置で、
1=0・y' , ただし、y'=∞ ,
という式になり、
右辺が不定値を表す式になり、左辺の値1と同じでは無い、
無効な式になります。
【事例3】
y=0,
という方程式で表されるグラフの場合には、
y=f(x),
という関数f(x)が存在します。
その場合は、
方程式:
y=0,
の両辺をxで微分した式:
y'=0,
は、
有効な式になります。
《円の接線の公式をベクトルの内積で求める》
円の接線の公式は、以下のようにして、ベクトルの内積を使って求めることができます。
このようにベクトルによって円の接線の公式を導き出す方が明確だと思います。
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「微分・積分」の勉強
関数f(x)であらわされるグラフの傾きは、以下のようにあらわされます。
この傾きは以下に説明する微分によって求めます。
---(定義2.1 「微分積分学入門」(横田 壽)67ページ---
(注:横田教授が芝浦工業大学を退官したため、この教科書を無料で掲載していたWebページが無くなりました。この本は書店で購入できます。)
関数f(x) がx0 を含むある区間で定義されているとき,極限値
が存在するならば,
関数f(x) は, x = x0 で微分可能(differentiable) であるといいます.
また,この極限値A を点x0 における微分係数といい,
で表わします.
-----(定義おわり)---------------------------
関数f(x) が,ある区間 I の各点で微分可能のとき
f(x) は区間 I で微分可能(differentiable on I) であるといいます.
この場合,区間 I の各点にそこでの微分係数を対応させることにより定まる関数を
f(x) の導関数(derivative) といい,
であらわします。
微分(導関数)を(df/dx)で表すことをライプニッツの記法と呼んでいます。
また、fの微分(導関数)を、f’とも書くことができます。その記法はラグランジュの記法と呼ばれています。
この微分の定義に従って、関数の微分を考えると、
以下の公式が導かれます。
(基本公式)
(f・g)’=f’・g+f・g’
(証明開始)
(証明おわり)
この「関数の積の微分の公式」は、ライプニッツ則と呼ばれる微分法の重要な公式です。
ライプニッツが、1684年に「極大と極小にかんする新しい方法」を出版して、その中で微分法を発表し、
ついで1686年に「深遠な幾何学」を出版して積分法を発表しましたが、
その研究の中心核を成す重要な公式です。
(基本公式の適用例)
(f・g)’=f’・g+f・g’
この基本公式から、以下のことが言えます。
x’=1ですが、
(x2)’=(x・x)’=x’・x+x・x’=2x
(x3)’=(x・x・x)’=x’・(x・x)+x・x’・x+(x・x)・x’=3x2
同様にして
(x4)’=4x3
(x5)’=5x4
ライプニッツが、この「関数の積の微分の公式」を発見して、その応用の広さを知って感動し、『これは数学の1分野となり得る』と思って「微分学」を発表する理由の1つになったのではないかと推察します。
何と!この感動的な基本公式は、高校2年では教わらないことになっているそうです。
(この教育方針は1989年ころから続いているようです)
この基本公式は、微分の定義を学んだなら、その定義の意味を知るためにも、直ぐ学ぶべき公式と考えます。
この公式を教えないと言うのは、高校生には微分を教えないということに等しいと考えます。
微分の本質が教えられていないと、その微分の応用を教えることができません。逆に、微分の応用が教えられない場合は、「微分の本質が教えられていないからである」と、微分の本質が教育できたか否かをチェックできます。
この基本公式を教えられないというチェック結果から、高校生には微分の本質が教えられていないことが確認できます。
そういうふうに教育されると、微分は全く理解できないことになると考えます。実際、その通りに、微分は高校生に全く理解されない結果が出ているようです。
実際、変数xで表される2つの関数があって、
変数xのある値xにおける、2つの関数のxによる微分係数が、以下の式であらわされて等しい場合に:
この関数を他の変数tで微分した場合に、
が成り立つと普通は考えますが、それが成り立たない場合もあります。
それが成り立つ場合と成り立たない場合を区別する条件は、「合成関数の微分の公式」を学ぶことで理解されますが、それが教えられていません。
高校生に微分が理解されないのも無理ないと考えます。
このブログを読んでいる、数学を学ぶ後輩に、先輩から一言助言します。
高校の微分積分の参考書は良くわからない。それに比べて、大学生向けの微分積分の参考書は分かりやすい。大学生向けの参考書は数学の本流にそって、ていねいに、公式は必ず証明した上で学生に使わせるようにしている。新しい知識は、必ず定義したり説明してから紹介している。
ハッキリ言って、大学生向けの微分積分の参考書は、高校の微分積分の知識を全く知らない学生に理解できるように書かれている。
しかも、大学生向けの微分積分の参考書の方が、やさしく分かり易い。
高校の微分積分を勉強するなら、先ず、大学生向けの微分積分の参考書を読むことを推薦します。高校の微分・積分の教科書は分かりにくいだけで無く、間違いも含まれています。読まない方が良いのではないかと考えます。
以前は、大学生向けの参考書で無料でダウンロードできた、
「微分積分学入門」(横田 壽)
(注:横田教授が芝浦工業大学を退官したため、この教科書を無料で掲載していたWebページが無くなりました。この本は書店で購入できます。)
をお勧めします。
(しかし、同じ著者の書いた高校生向けの参考書「確実に身につく微分積分(2012年)」の1版は、内容が劣化しているのでお勧めできません。大学生向けの本物の知識の参考書「微分積分学入門(2004年)」を読んでください。)
その他に、高校2年生が勉強するのに適切な、書店で購入できる微分積分の参考書は:
「やさしく学べる微分積分」(石村園子) ¥2000円
が内容がわかり易くて良いと思います。
この本の36ページから始めて、45ページまで読めば、微分の概念から始めて合成関数の微分の公式まで学ぶことができます。
「やさしく学べる微分積分」(石村園子)の読み方は、 36ページから始まる2章「微分法」の以前のページは斜め読みして、何が書いてあるらしいかを漠然と把握しておいて、2章「微分法」以降を精読することをお勧めします。読んでいるうちに知らない関数や概念が出てきたら、36ページ以前に書いてありますので、探して、その部分を読んで理解するように勉強してください。
リンク:
高校数学の目次