やさしい微分積分
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《実数とは》
微分積分の命綱を握っているのが実数の概念です。以下の例を用いて実数について考える。
下の図のようにx=1から、x=2、次にx=3/2 というように有理数の値を変えてくと、限りなく近づく先の数が有理数の中には無い。しかし、そのように限りなく近づく先の数が存在すると考えた。その数を実数と呼ぶ。
このように、「限りなく近づける」操作(極限の操作)が、数の概念を拡張することを要請し、そうして拡張された新たな数が実数であった。この拡張された数である実数から成るとされる数直線には数の連続性があるとされた。このように極限の操作によって数の概念が実数にまで拡張され、それが数の連続性と微分積分の礎になった。
《数列の極限》
項が限りなく続く数列x1, x2, x3, ・・・, xn, ・・・を無限数列と言う。xnをその第n項といい、この無限数列を{xn}であらわす。また、an を自然数nの式であらわしたものを数列{xn} の一般項という。
「変数xが限りなく点aに近づく」という極限の定義は、数の集合Aにおいて、以下のことが成り立つこととして、極限を定義する。
【数列の極限の定義】
以下の図で、「数の集合Aの要素で、点a以外の値の、変数xの無限数列{xn}を考える。

この数列{xn}では、自然数nが限りなく大きくなるとき、第n項は限りなく値aに近づく。
一般に、数列{xn}において、nが限りなく大きくなるにつれて、xn が一定の値aに限りなく近づくとき、数列{xn}はaに収束する、または、数列{xn}の極限はaであるという。その値aを数列{xn}の極限値であるという。(点aは数の集合Aの要素で無くても良い)。
数列{xn}の極限値がaであるとき、次のように書く。

(ここで、記号∞は”無限大”と読む。∞は数をあらわすものではない)
すなわち、「変数xが限りなく点aに近づく」という極限の概念を、点aに収束する、数の集合Aの要素のxの無限数列を使って数学的に定義した。
その結果、変数xが限りなく近づく先の数の点aは、すなわち、変数xの極限の数の点aは、
数の集合Aの要素の点xの無限数列の集積点であるという結論が得られる。
--(集積点の定義)--
実数の集合Rの部分集合の数の集合Aを考える。
(1)実数の点aが数の集合Aの集積点であるとは、
点aの値以外の数の集合Aの要素の点xn による、点aに収束する無限数列 {xn}が存在すること(点aは実数ではあるが、数の集合Aの要素とは限らない)である。
(2)数の集合Aの要素のある数の点yが集積点ではないとき、その点yを数の集合Aの孤立点と呼ぶ。
--(集積点の定義おわり)---
《数列の発散》
数列{xn}が収束しないとき、数列{xn}は発散するという。
次の数列は発散する。

なお、数列{xn} において、nを限りなく大きくすると、xn が限りなく大きくなるとき、数列xn は正の無限大に発散するといい、次のように書く。

このとき、数列{xn}の極限は正の無限大であるということがある。
また、数列{xn} において、nを限りなく大きくすると、xn が限りなく小さくなるとき、数列xn は負の無限大に発散するといい、次のように書く。

このとき、数列{xn}の極限は負の無限大であるということがある。
数列{xn}が発散するが、正の無限大にも発散せず不の無限大にも発散しない数列{xn}は振動するという。
《関数の極限》
関数f(x) の定義域のxの数の集合Aから、aと異なる数x1, x2, x3, ・・・, xn, ・・・ を選んで、点aに収束するxの無限数列{xn}を作った場合に、その無限数列{xn}が点aに収束するのにともなってf(x) が値Cに収束することが、x→aで関数f(x)に極限値Cが存在するための基礎条件である。
関数f(x) において、変数xがaと異なる値をとりながら限りなくaに近づくとき、f(x) の値が一定の値Cに限りなく近づくならば、
x→aのときf(x) の極限値がCである。
といい、次のように書く。

また、この場合、”x→aのときf(x) はCに収束する”という。
【関数の極限の定義】
変数xがaと異なる値をとりながら限りなくaに近づくとき、関数f(x) の値が一定の値Cに限りなく近づくという関数の極限は、以下のように定義する。
関数f(x) の定義域の集合Aと点aとの和集合を区間A’とする。そして、「変数xが限りなくaに近づくとき関数f(x) に極限値Cが存在する」ことの数学的定義を:
「区間A’内のaで無い点xの、点aに収束する全ての無限数列{xn}で共通して、関数f(x) が同じ値Cに収束する」ことと定義する。
そう定義する理由は、関数f(x) によっては、点aに収束する各無限数列{xn}毎に、関数f(x) が異なる値Cに収束したり、収束しなかったりすることがあるからである。
【区間の定義】
「区間」という数学用語は、変数xの数直線上の1つの範囲内の、実数のすき間がなく連結している1かたまりの数の集合をあらわす数学用語である。「隙間が無い」大前提のために、実数の集合でなければならない。
a, b を実数とする. a≦x≦b の実数xをすべて集めた集合を [a, b] と書き, これを閉区間と呼ぶ.
a<x<b の実数xをすべて集めた集合を (a, b) と書き, これを開区間と呼ぶ.
変数xの「区間」の大切な特徴は、「区間」は、所定の1かたまりのxの範囲内での隙間が無い全ての実数の集合が「区間」である。
【関数の極限の定義の論理的帰結】
(区間A’の内点での極限)関数f(x) の定義域の集合と点aとの和集合から成る区間A’の内点a(ただし点aで関数が定義されなくても良い)での極限は、点aの右側極限と左側極限との両側で極限値Cが存在して、両側の極限値Cが一致することが内点aで極限が存在する条件である。(区間A’の内点とは、区間A’の端点以外の、区間内の点のことである)。
xが、内点aの値よりも大きい値をとりながら限りなくaに近づくときf(x) の値が限りなくCに近づくならば、Cを点aでのf(x) の右側極限値といい、次のようにあらわす。

xが、内点aの値よりも小さい値をとりながら限りなくaに近づくときf(x) の値が限りなくCに近づくならば、Cを点aでのf(x) の左側極限値といい、次のようにあらわす。

〔極限が存在する条件〕区間A’の内点aでは、極限が存在する条件は、区間A’内のaで無い点xの、点aに収束するどの無限数列{xn}であっても関数f(x) が同じ値Cに収束することである。
▷そのため、区間A’内の点xの、点aより大きい数の無限数列{xn}による右側極限でも値Cに収束する。
▷また、区間A’内の点xの、点aより小さい数の無限数列{xn}による左側極限でも同じ値Cに収束する。
すなわち、右側極限も存在し、左側極限も存在して、両者の極限値Cが一致することが区間A’の内点aで極限が存在するために必要十分な条件である。
〔関数f(x) の、点aより小さい値と大きい値のxn が混ざった数列で点aに収束する無限数列{xn}の関数値f(xn) も同じ極限値Cに収束する〕以下でこれを示す。
関数f(x) の点aの右側極限値と左側極限値が同じ値Cであるとする。
その場合に、関数f(x) の、点aより大きい値と小さい値のxn が混ざった数列で点aに収束する無限数列{xn}を考える。
(1)無限数列{xn}から、xn の値がaより大きい数だけを抽出して、その他の数は工夫して、aより大きい数yn でaに収束する無限数列{yn}を作ることができ、f(yn) はCに収束する。
(2)無限数列{xn}から、xn の値がaより小さい数だけを抽出して、その他の数は工夫して、aより小さい数zn でaに収束する無限数列{zn}を作ることができ、f(zn) はCに収束する。
そして、zn ≦xn≦yn が成り立つようにこれらの数列を作ることができる。そうすると、無限数列{xn}の関数f(xn)も同じ極限値Cに収束することが示せる。
(区間A’の端点での極限) 関数f(x) の定義域の集合と点aとの和集合から成る区間A’の端点aでの極限は、区間A’内の点xの、点aに収束するどの無限数列{xn}であっても関数f(x) が同じ値Cに収束することである。
▷そして、区間A’の左側の端点aでは、無限数列{xn}は、区間A’内の点xの、点aより大きい数の無限数列{xn}による右側極限しか無いので、右側極限値が存在するだけで、端点aで極限値が存在する条件になる。
▷また、区間A’の右側の端点aでは、無限数列{xn}は、区間A’内の点xの、点aより小さい数の無限数列{xn}による左側極限しか無いので、左側極限値が存在するだけで、端点aで極限値が存在する条件になる。
《関数の連続性》
「連続関数とは何か」
https://schoolhmath.blogspot.com/2024/11/blog-post_93.html
のページが参考になる。
関数の連続性の定義についても、極限の定義と同じで、
区間A’の内点aでの関数の連続性は、点aの両側極限が一致した上で、かつf(a) と等しくなることが、点aで関数が連続である条件になる。
区間A’の端点aでの連続性は、点aの片側極限が存在した上で、かつf(a) と等しくなることが、点aで関数が連続である条件になる。
《関数の微分可能性》
「微分とは何か」
https://schoolhmath.blogspot.com/2024/11/blog-post_6.html
のページが参考になる。
関数の微分可能性の定義についても、極限の定義と同じで、
区間A’の内点aでの微分可能性は、点aで関数が連続であって、点aの両側での微分係数が一致することが、点aで関数が微分可能である条件になる。
区間A’の端点aでの微分可能性は、点aで関数が連続であって、点aの片側での微分係数が存在することが、点aで関数が微分可能である条件になる。
リンク:
関数の極限の定義
連続性公理と実数を定義する3つの方法 (初学者向けの話)
実数はどう定義される?|実数の連続性公理から理解する
高校数学の目次
【問1】
数列 (a_n) の極限αを定義する式に関して:
∀ε>0, ∃N∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n>N)⇒(|(a_n)−α|<ε)]… (1)
∀ε>0, ∃M∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n≧M)⇒(|(a_n)−α|<ε)]… (2)
(1) ⇔ (2)を証明せよ。
【証明開始】
∀ε>0, ∃N∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n>N)⇒(|(a_n)−α|<ε)]… (1)
⇔
∀ε>0, ∃N∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n≦N)∪(|(a_n)−α|<ε)]… (1b)
である。
また、
∀ε>0, ∃M∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n≧M)⇒(|(a_n)−α|<ε)]… (2)
⇔
∀ε>0, ∃M∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n<M)∪(|(a_n)−α|<ε)]… (2b)
である。
先ず、式(1b)を同値変形する。
任意のN個の命題P1,P2,・・・PNに対して、
(∀n∊{1,2,・・・N},{Pn})⇔(P1∩P2∩・・・PN)
が成り立つ。すなわち、命題P1から命題PNが連立される。
そのため、
∀ε>0, ∃N∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n≦N)∪(|(a_n)−α|<ε)]… (1b)
という論理式は、以下の連立論理式を意味する。
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=1[(1≦N)]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=2[(2≦N)]
・・・
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N[(N≦N)]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+1[(N+1≦N)∪(|(a_n)−α|<ε)]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+2[ |(a_n)−α|<ε]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+3[ |(a_n)−α|<ε]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+4[ |(a_n)−α|<ε]
・・・
という連立論理式全てが成り立つという意味である。
これは、以下の連立論理式と同値。
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+1[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+2[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+3[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃N∈ℕ, n=N+4[(|a_n−α|<ε)]
・・・
任意のN個の命題P1,P2,・・・PNに対して、
(∃n∊{1,2,・・・N},{Pn})⇔(P1∪P2∪・・・PN)
が成り立つ。すなわち、命題P1から命題PNの和集合になる。
そのため、
上の連立論理式は、以下の連立論理式の和集合と同値。
「∀ε>0, N=1, n=2[ |(a_2)−α|<ε]
∀ε>0, N=1, n=3[ |(a_3)−α|<ε]
∀ε>0, N=1, n=4[ |(a_4)−α|<ε]
・・・」
∪
「∀ε>0, N=2, n=3[(|(a_3)−α|<ε)]
∀ε>0, N=2, n=4[(|(a_4)−α|<ε)]
∀ε>0, N=2, n=5[(|(a_5)−α|<ε)]
・・・」
∪
「∀ε>0, N=3, n=4[(|(a_4)−α|<ε)]
∀ε>0, N=3, n=5[(|(a_5)−α|<ε)]
∀ε>0, N=3, n=6[(|(a_6)−α|<ε)]
・・・」
∪
・・・
この論理式は、以下の連立論理式の和集合と同値。
「∀ε>0, N=100, n=101[(|(a_101)−α|<ε)]
∀ε>0, N=100, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, N=100, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
・・・」
∪
「∀ε>0, N=101, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, N=101, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
∀ε>0, N=101, n=104[(|(a_104)−α|<ε)]
・・・」
∪
・・・
更に、この論理式は、以下の連立論理式の和集合と同値。
「∀ε>0, n=101[|(a_101)−α|<ε]
∀ε>0, n=102[|(a_102)−α|<ε]
∀ε>0, n=103[|(a_103)−α|<ε]
・・・」
∪
「∀ε>0, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
∀ε>0, n=104[(|(a_104)−α|<ε)]
・・・」
∪
・・・
この連立論理式の和集合を、第1の論理式とする。
次に、式(2b)を同値変形する。
任意のN個の命題P1,P2,・・・PNに対して、
(∀n∊{1,2,・・・N},{Pn})⇔(P1∩P2∩・・・PN)
が成り立つ。すなわち、命題P1から命題PNが連立される。
そのため、
∀ε>0, ∃M∈ℕ, ∀n∈ℕ[(n<M)∪(|(a_n)−α|<ε)]… (2b)
という論理式は、以下の連立論理式を意味する。
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=1[(1<M)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=2[(2<M)]
・・・
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M[(n<M)∪(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+1[(M+1<M)∪(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+2[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+3[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+4[(|a_n−α|<ε)]
・・・
という連立論理式全てが成り立つという意味である。
これは、以下の連立論理式と同値。
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+1[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+2[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+3[(|a_n−α|<ε)]
∀ε>0, ∃M∈ℕ, n=M+4[(|a_n−α|<ε)]
・・・
任意のN個の命題P1,P2,・・・PNに対して、
(∃n∊{1,2,・・・N},{Pn})⇔(P1∪P2∪・・・PN)
が成り立つ。すなわち、命題P1から命題PNの和集合になる。
そのため、
上の連立論理式は、以下の連立論理式の和集合と同値。
「∀ε>0, M=1, n=1[|(a_1)−α|<ε]
∀ε>0, M=1, n=2[|(a_2)−α|<ε]
∀ε>0, M=1, n=3[|(a_3)−α|<ε]
・・・」
∪
「∀ε>0, M=2, n=2[|(a_2)−α|<ε]
∀ε>0, M=2, n=3[|(a_3)−α|<ε]
∀ε>0, M=2, n=4[|(a_4)−α|<ε]
・・・」
∪
「∀ε>0, M=3, n=3[|(a_3)−α|<ε]
∀ε>0, M=3, n=4[|(a_4)−α|<ε]
∀ε>0, M=3, n=5[|(a_5)−α|<ε]
・・・」
∪
・・・
この論理式は、以下の連立論理式の和集合と同値。
「∀ε>0, M=101, n=101[(|(a_101)−α|<ε)]
∀ε>0, M=101, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, M=101, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
・・・」
∪
「∀ε>0, M=102, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, M=102, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
∀ε>0, M=102, n=104[(|(a_104)−α|<ε)]
・・・」
∪
・・・
更に、この論理式は、以下の連立論理式の和集合と同値。
「∀ε>0, n=101[(|(a_101)−α|<ε)]
∀ε>0, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
・・・」
∪
「∀ε>0, n=102[(|(a_102)−α|<ε)]
∀ε>0, n=103[(|(a_103)−α|<ε)]
∀ε>0, n=104[(|(a_104)−α|<ε)]
・・・」
∪
・・・
この連立論理式の和集合は、第1の論理式と同値である。
よって、
(1) ⇔ (2)が証明された。
(証明おわり)
(補足)
以上で考察したε-N論法で極限を定義する論理式を展開して得た「連立論理式の和集合」の持つ意味は、ある点αのまわりの”開区間”に、n≧Nなる点列a_nが収納されていることを「連立論理式の和集合」によってあらわしていると捉えることができる。
リンク:
19世紀の解析学における「厳密化革命」とは何か
ε-δ論法の誕生
【ε論法】関数の連続性とδのテクニック
連続関数の定義
高校数学の目次
(当ブログの結論)
高校2年生が微分積分を学習するのに適切な本は、高校生用の教科書や参考書なのでは無く、大学1年生向けの参考書:例えば:
「やさしく学べる微分積分」(石村園子)
書評「素晴らしいほどわかりやすい。 高校2年の知識があれば、すらすら読める。 数学苦手な人でも、やさしくシリーズは、微積とベクトルはとっつきやすいと思うので、おすすめです。」
などだと思います。
その本は、初めて微分積分を学ぶ高校2年生にとって、内容がわかり易いです。説明が正確でごまかしが無いので、高校教科書の微分積分の説明にあるようなごまかしが納得できず(ごまかしに納得する方がおかしい)学習が止まってしまう様なことが無く、スムーズに勉強を進めることできるので良いと思います。その本の36ページから45ページまで勉強するだけで、微分の必須知識が学べます。
(微分積分学の歴史)
ライプニッツが、1684年に「極大と極小にかんする新しい方法」を出版して、その中で微分法を発表し、
ついで1686年に「深遠な幾何学」を出版して積分法を発表しました。
その後に、ニュートンが微分積分学を発表しました。
それに対して、旧い数学者のバークレー司教(Bishop George Berkeley)が微分積分学を攻撃した論争が微分積分学を正しく育てました。
バークレー司教は、ダブリンのトリニティ・カレッジで神学を学び、後に講義をする。アイルランド、クロインの(英国国教会の)監督Bishopとなる(1734)。
バークレー司教は、数学から唯物論を追放する目的で、『解析者―不誠実な数学者へ向けての論説』(The Analyst:
or a Discourse Addressed to an Infidel Mathematician,
1734)で、ニュートン・ライプニッツ理論(微分積分学)を攻撃し、大論争を引き起こす(『解析教程』第II章第1節参照)。
ド・モアブル、テイラー、マクローリン、ラグランジュ、ヤコブ・ベルヌーイ、ヨハン・ベルヌーイなどが論争に加わり、微積分学の論理的基礎づけに対する関心を高めた功績は大きい。
とくに、マクローリンは反論のためにニュートンの方法の厳密な構成を行った。
以下で、バークレー司教の微分積分学に対する感想を見てみます。
『バークレー司教:解析者より』
「しかし、速度の速度、その速度、そのまた速度、またその速度、またまたその速度などなどというのは、私が間違っているのでなければ、すべての人間の理解を越えてしまっています。
精神がこの捉え難いアイデア(微分積分学)を解析し追及すればするほど、それはまごつき狼狽えることになり.....」
『バークレー司教:解析者より』
「......我が時代の解析者(微分積分学)は有限の量の差を考えるだけでは満足しません。
彼ら(微分積分学)はさらにその差の差を考え、最初の差の差の差を考えます。 そしてさらに無限にまで。
つまり彼ら(微分積分学)は認識できる最小の量よりさらに無限に小さい量を考えます。
その無限に小さい量よりもさらに無限に小さな量を、そしてその上これまでの無限小量よりもさらに無限に小さい量を考え、終わりも限界もないのです。
......もう告白するしかありませんが、無限に小さい量を心に描くことは ......私の能力を超えています。
しかし、そのような無限に小さい量の、それよりさらに無限に小さい一部、だから結局それを無限倍したとしても最も微細な有限の量にまでなることもできない、そんなものを想像するということは、どんな人にとってもそれこそ無限に困難なことだろうと、私は思うのです。.....」
『バークレー司教:解析者より』
「そして、この流率(微分)とは何だろうか?
無限小の増分の速度。 そして、これら同じ無限小の増分の速度とは何なんだろうか?
これらは有限の量でもなく、無限に小さい量でもなく、無でもない。 こんなものなら、過ぎ去った量の幽霊と呼んではいけないというのだろうか? 」
ニュートンとライプニッツの微分は、「無限小」の概念が十分に論理付けされていなかったため、今日のような厳密さが欠けていた。だが、微分は、力学や天文学などで応用可能、しかも実用的であったため、ベルヌーイやロピタル、オイラー、ラグランジュ、ラプラスなどの研究によって普及していった。
微分学が厳密性を伴うようになったのは、19世紀に入ってからである。仏の数学者コーシーは、1821年に発表した「解析教程」で「極限」や「無限小」、「連続関数」の概念を定義し、解析学の基礎を刷新し、その後デデキントやカントールによる実数論などを経て、今日の微分の基礎が完成した。
連続関数の定義は、1817年にBolzanoが中間値の定理を証明する前提条件に定義した連続関数の定義により、歴史上初めて連続関数が正しく定義された(その定義は関数の連続性を区間で定義するものである)。
その歴史的経緯から、中間値の定理を成り立たせない関数を連続関数と呼ぶ高校数学での連続関数の定義は偽物である。なお、高校数学で定義された連続関数という言葉が使い物にならないので、
大学数学では、連続関数という言葉を使わずに「区間連続」という言葉で本来の意味の連続関数をあらわすことにしています。
微分積分学を厳密化するしくみ
初期の微分積分学では,「限りなく近付ける」という概念を使って来た。この極限の最大の問題点は、「限りなく近づく」という表現の曖昧さです。その概念を具体的に数学的に明確な概念にするのが「ε-δ論法」です。
コーシー(1789-1857)は不等式を使ったε-δ論法を導入した。
コーシー以前たとえばラグランジュが「無限小」や「極限」を曖昧なものとして数学の記述から排除しようとしたのに対して、コーシーは動的な表現が不等式評価と結びつくことを洞察して積極的に数学の記述に取り込んだ。不等式評価と結びついていることが把握されてさえいれば、動的表現自体を排除する必要はない。
極限の概念を明確にすると、(1) コーシーらの開拓した古典的(基礎的)微分積分学のイプシロンデルタ論法による極限の表し方と、(2) 位相空間論に係わり再構築した微分積分学のイプシロンデルタ論法による極限の表し方との、異なる2つの極限の表し方があります。そのようにイプシロンデルタ論法によって明確に表した極限の概念は複数あるのです。その2つを合わせて「限りなく近付ける」と言っていたのですから、その表現がいかにあいまいであったかが分かると思います。
(イプシロンデルタ論法の説明は、ここをクリックした先のサイトが参考になる。)
《実数とは》
微分積分の命綱を握っているのが実数の概念です。以下の例を用いて実数について考える。
下の図のようにx=1から、x=2、次にx=3/2 というように有理数の値を変えてくと、限りなく近づく先の数が有理数の中には無い。しかし、そのように限りなく近づく先の数が存在すると考えた。その数を実数と呼ぶ。
このように、「限りなく近づける」操作(極限の操作)が、数の概念を拡張することを要請し、そうして拡張された新たな数が実数であった。この拡張された数である実数から成るとされる数直線には数の連続性があるとされた。このように極限の操作によって数の概念が実数にまで拡張され、それが数の連続性と微分積分の礎になった。
《数列の極限》
項が限りなく続く数列x1, x2, x3, ・・・, xn, ・・・を無限数列と言う。xnをその第n項といい、この無限数列を{xn}であらわす。また、an を自然数nの式であらわしたものを数列{xn} の一般項という。
「変数xが限りなく点aに近づく」という極限の定義は、数の集合Aにおいて、以下のことが成り立つこととして、極限を定義する。
【数列の極限の定義】
以下の図で、「数の集合Aの要素で、点a以外の値の、変数xの無限数列{xn}を考える。

この数列{xn}では、自然数nが限りなく大きくなるとき、第n項は限りなく値aに近づく。
一般に、数列{xn}において、nが限りなく大きくなるにつれて、xn が一定の値aに限りなく近づくとき、数列{xn}はaに収束する、または、数列{xn}の極限はaであるという。その値aを数列{xn}の極限値であるという。(点aは数の集合Aの要素で無くても良い)。
数列{xn}の極限値がaであるとき、次のように書く。

すなわち、「変数xが限りなく点aに近づく」という極限の概念を、点aに収束する、数の集合Aの要素のxの無限数列を使って数学的に定義した。
その結果、変数xが限りなく近づく先の数の点aは、すなわち、変数xの極限の数の点aは、
数の集合Aの要素の点xの無限数列の集積点であるという結論が得られる。
--(集積点の定義)--
実数の集合Rの部分集合の数の集合Aを考える。
(1)実数の点aが数の集合Aの集積点であるとは、
点aの値以外の数の集合Aの要素の点xn による、点aに収束する無限数列 {xn}が存在すること(点aは実数ではあるが、数の集合Aの要素とは限らない)である。
(2)数の集合Aの要素のある数の点yが集積点ではないとき、その点yを数の集合Aの孤立点と呼ぶ。
--(集積点の定義おわり)---
《関数の極限》
関数f(x) の定義域のxの数の集合Aから、値がaと異なる要素xn を順に選んで、点aに収束するxの無限数列{xn}を作った場合に、その無限数列{xn}が点aに収束するのにともなって、 f(x) が値Cに収束するということが、x→aで関数f(x)に極限が存在するための基礎条件である。
関数f(x) において、変数xがaと異なる値をとりながら限りなくaに近づくとき、f(x) の値が一定の値Cに限りなく近づくならば、
x→aのときf(x) の極限値がCである。
といい、次のように書く。

また、この場合、”x→aのときf(x) はCに収束する”という。
【関数の極限の(第1の)定義】
変数xがaと異なる値をとりながら限りなくaに近づくとき、関数f(x) の値が一定の値Cに限りなく近づくという関数の極限は、以下のように定義する。
関数f(x) の定義域の集合Aを、区間とする。そして、「変数xが限りなくaに近づくとき関数f(x) に極限値Cが存在する」ことの数学的定義を:
「区間A内の点xの、点aに収束する全ての無限数列{xn}で共通して、関数f(x) が同じ値Cに収束する」ことと定義する。
そう定義する理由は、関数f(x) によっては、点aに収束する各無限数列{xn}毎に、関数f(x) が異なる値Cに収束したり、収束しなかったりすることがあるからである。
【関数の極限の(第2の)定義】
また、古典的(基礎的)微分積分学のもう1つの考え方では、集合Aの要素の点x がaに限りなく近づくとは,
絶対値|x−a| を限りなく小さくできる(そういう条件を満たす値xが集合Aの要素に存在する)ということと同じだと考えてもよい.集合Aが区間であれば、それは、いつでも成り立っている。
そして, f(x) が値Cに限りなく近づくということも
|f(x) − C| を限りなく小さくできることだと考えてもよい.
《関数f(x) のxの定義域の集合Aは区間とする》
定義域の集合Aが区間であって、区間Aの要素のxの値がx0に近い全ての点x(aに近い区間A内の全ての実数の点x)において、f(x)がCに近い値になることが、x=aでf(x)に極限値が存在することの厳密な(第2の)定義である。この(第2の)定義は、(第1の)定義と、必要十分な関係にある。
《古典的(基礎的)微分積分学のイプシロンデルタ論法の大前提》
関数f(x) は少なくとも、定義域の区間Aの微小な区間
0<|x-a|< δ, (ここで、δはある小さな正の実数)
の全ての実数の点で定義されている(1点のみは区間ではない)とする。
ということを初めから前提にして、古典的(基礎的)微分積分学による関数の極限の定義と関数の連続の定義をイプシロンデルタ論法で表現すると、以下のようにとても簡単にあらわせる。(ただし、極限の定義の場合にはf(a) が定義されていないでも良いものとする)
《基礎的微分積分学のεδ論法による関数の極限の定義》
関数f(x) がxの点列の収束するあるx=aの点で実数Cに収束する極限値Cが存在するということを、以下のようにイプシロンデルタ論法で定義する。
x=aの点で、
十分小さい正の値の実数εを考える(あらゆる値のεを考える)。
次に、ある小さな正の値の実数δを考える。
そして、どのように小さい値のεに対しても(あらゆる値のεに対して)、
ある値の実数δが存在して、
0<|x-a|<δ, x≠a,
を満足するa以外のxが存在し(当たり前)、このδで値を制限された変数xの、その範囲内の全ての実数の値において、
|f(x)-C|<ε
となるような実数Cが(あらゆるεの値に対して)存在するならば(またそうなる場合に限って)、f(x)の極限が存在するものとし、その極限値をCとする。
(極限の定義おわり)
《連続の定義》
定義域Aの点x=aでの関数f(x) に関して十分小さい正の実数εを考える。次に、正の実数δを考える。
そして、どのように小さい値のεに対しても、
ある値の実数δが存在して、
|x-a|<δ
を満足するa以外のxが存在し(当たり前)、この式を満足する全ての実数xで、
|f(x)-f(a)|<ε
となるならば(またそうなる場合に限って)、f(x)が点aで連続である。
(連続の定義おわり)

-----(連続の定義の言い換え)----
この定義をハッキリ把握するために、想像力を膨らませて、この定義を、以下の様に噛み砕いて自分の言葉で言い換えて定義を覚えると良い。
(0)
この、関数の点aでの連続の定義は、関数の点aの近傍の幅を持った微小区間で連続を判定している。
すなわち、関数の連続を確認する点x=a については、その点の座標の近傍の微小区間の、少なくとも、
0<|x-a|< δ, (ここで、δはある小さな値の正の実数)
という微小区間の全ての実数値xで関数f(x)が定義されていることが大前提である。
「区間」と言う場合は、それは1つの連結区間であって、その区間内の全ての実数が関数の定義域である事を意味する。
(1)
次に、点aに近い(点aも含む)関数の定義域の区間Aの要素の点xを考える。
(2)aから、正の値δの範囲内でずれる、aも含む定義域の全てのxの値についてf(x)を考える。
この定義における「全てのxの値」の意味は、aから、正の値δの範囲内でずれる値の区間に属する全て実数のxを考慮することを意味する。
(3)
その全てのxの値の関数f(x)の値のバラツキの誤差を求める。
その誤差<εとする小さな正の値εでバラツキの範囲を定める。
すなわち、点aの近傍の区間の全ての実数x(ただし、x=aの場合も含む)の値の関数値f(x)について、
-ε< (f(x)-f(a))<ε
となる正の値εを定める。
(4)
点aの近傍の区間の全ての実数xの値の区間の範囲を式:
0<|x-a|< δ
で定める正の値δを十分小さくすれば、
その範囲内の全ての変数x(値aも含む)によるf(x)の値のバラツキが小さくなりバラツキの範囲の値 ε をいくらでも小さくできるならば;
f(x)はx=aで極限値Cを持ち、かつ、その極限値Cがf(a)に等しい。
その場合に、
関数f(x)は、
x=aで連続である。(連続の定義おわり)。
言い換えると、
「点aでf(x)が連続であるとは、
どんなに小さい正の実数値εに対しても、
十分小さい正の実数値δを使って関数の定義域のxの区間A内の微小区間を、
0<|x-a| <δ (x=aとなる場合も含む)
に限定すれば、その微小区間内のどのxの値でも、
-ε< (f(x)-f(a))<ε
が成り立つようにできる事である。」
----(定義の言い換えおわり)-----------
〔位相空間論に係わり再構築した微分積分学〕
一方で、位相空間論に係わり再構築した微分積分学は、位相空間の数の集合(限定された数)のみに基づいて関数の性質を解析する。
先に述べたように、古典的(基礎的)微分積分学の発展の歴史は、微分積分の概念を確立する過程で間違いを繰り返してようやく厳密性(論理的正しさ)を確保できた歴史がある。現代数学の位相空間論に係わり再構築した微分積分学も、同様に、多くの間違いを繰り返して最後に厳密性(論理的正しさ)を確保する過程の途上にあると考える。
位相空間論に係わり再構築した微分積分学では、関数の連続性の定義は、εδ論法(イプシロンデルタ論法)を使うのではあるが、関数の(値域の)連続性を、定義域が実数の区間であるとは限らない関数に対して定義する。その関数では、定義域が実数の区間であるべしという制約を無くしたので、(値域の)連続性があるとされた関数のグラフが連結しているとは限らない。その関数のグラフは切れ切れのグラフになる。
〔位相空間論に係わる、関数の(値域の)連続性の定義〕
関数f(x) の定義域をAとする。(Aは有理数のみでも良い)
ある点a∊Aにおいて、(点aは孤立点であっても良い)
『どのようなε>0に対しても、
あるδ>0において、
全てのx∊Aに対して、
|x-a|<δ
となるならば、
|f(x)-f(a)|<ε
となる。』
という命題が成り立つならば、
f(x)は点aで「(値域の)連続性」がある。
という定義である。
(関数の連続性の定義おわり)
「関数 f(x) が、その関数f(x) の定義域Aのすべての x =aの値で位相空間論に係わる連続性があるとき、 f(x) は位相空間論に係わり定義された(値域の)連続関数である」
例えば、以下のグラフであらわす、定義域Aが有理数全体である関数f(x) が、位相空間論に係わり定義された(値域の)連続関数である。(√2 は定義域Aの外の数である)。

(この位相空間論に係わる(値域の)連続性の定義には、孤立点に連続性があるという定義が含まれている。孤立点の極限は、この(値域の)連続性の定義を経由して定義する。)
この関数の(値域の)連続性の定義は、正確には、位相空間論の連続写像の定義の基礎となる定義であって、位相空間論の連続写像の定義そのものではない。
実数R全体での点aでのこの連続性の定義が満足される関数ならば、実数全体での位相空間の連続写像と同値になる。
《関数の連続性の条件》
関数がある点aで連続であるとは、第1の条件として、関数の定義域Dが点aと、aの近傍で連結していることである。第2の条件として、点aで関数f(x) の値域が連結していることである。その2つの条件を満足しない点aは「連続でない点」である。
第1の条件は、変数xの点aが関数f(x) の定義域Dに含まれることと、x=aの近傍の定義域は実数が連結したxの微小区間であることとを要請する(連結している数の集合は実数がすき間なく存在する区間だけである)。
第2の条件は、式(10)であらわすように、点aに限りなく近づく関数f(x) の極限の値がf(a) であることを要請する。

(第2の条件の補足)更に、第1の条件が満足されない点βでは、(位相空間論に係わる微分積分学では)第2の条件を不問にしている。しかし、その点βで関数f(x) の値f(β) を定義して第1の条件を満足させると、再度第2の条件で判定すると点βが連続ではないことが判明することがある。そのような点βでは、そうした後に調べる以前から(値域の)連続性を判定する必要がある。その判定は、以下の式(10b)であらわす、点βに限りなく近づく関数f(x) の極限値が存在する条件により判定する必要がある。

すなわち、関数f(x) の定義域D上の点aの点列で、n≧Nなる点列a_nが収束する先の点βのまわりの”開区間”に含まれる点a_nの関数の値f(a_n) が値域の”開区間”に含まれることを、点βでの関数f(x) の(値域の)連続性の定義とするべきである。
【積分とは何か】
積分については,ここをクリックした先のpdfファイルにある原教授の以下のコメントが大切です。
---(原教授のコメント開始)---------
積分については高校でも習ってはいるが,その基礎を突き詰めていくといろいろと困ったことがでてくる.
特に「積分は微分の逆演算」として定義すると,「ある関数 f の積分を求めよ」という問題や「この関数の積分は定義できるか?」という問題でハタと困ってしまう.
(微分して f になるような関数がわからない場合,高校までの知識ではお手上げだ.)
この節では高校までの知識はいったん忘れて,「積分とは何か」「積分をどのように定義すべきか」から話を始める.
4.1 積分(定積分)の定義
ということで,まずやるべきは「与えられた関数f(x) に対して,その積分を定義すること」である.
これから見ていくように,かなり広いクラスの関数に対してその積分(定積分)を定義することができる.
定積分を通して不定積分も定義できるので,高校までの知識とのつながりがつくことになる.
・・・
積分の最も素朴な定義はこれから紹介する「リーマン和」に基づくもので、、、
---(原教授のコメントおわり)------
(補足2)
(「リーマン積分可能」の定義)
「微分積分学入門」(横田 壽)の124ページから125ページに「リーマン積分可能」の定義が書いてあります:
(この本は書店で購入できます。)
その他に、高校2年生が勉強するのに適切な、書店で購入できる微分積分の参考書は:
「やさしく学べる微分積分」(石村園子) ¥2000円
が内容がわかり易くて良いと思います。
ここではドイツの数学者G.F.B. Riemann (1826-1917) によって示されたRiemann 積分について学んでいきます.リーマン積分による「積分可能」の定義は、全ての種類の「積分可能」の定義の基礎になっています。
f(x) は閉区間[a, b] で定義されているとします.この閉区間[a, b] を次のような点xi(i =
1, 2, . . . , n) でn 個の小区間に分割します.
(a = x0 < x1 < x2 < · · · < xi < · · · < xn = b)
この分割をΔ で表わし, Δxi = xi − xi−1 (i = 1, 2, . . . , n) のうちで最も大きい値を|Δ| で
表わします.
(注目ポイント)
高校数学で教える区分求積法では、区間を細分した部分区間のグラフの高さf(x)を求めますが、そのxの位置が部分区間の中の特定の位置に固定されています。
その固定をしないで、どの位置のxでのf(x)を棒グラフの高さにして計算しても良い、
というのがリーマン積分です。
いま,それぞれの小区間[xi−1, xi] のなかに任意の位置に点ξi をとり,Riemann 和
(Riemann sum) とよばれる次の和を考えます.
このとき、
となる実数S が存在するならば,このS をf(x) の定積分(definite integral) といい, f(x) は閉区間[a, b] で積分可能(integrable) であるといいます.また,このS を次のように表わします.
つまり関数f(x) が閉区間[a, b] で積分可能であるということは,分割の仕方および点ξi(i = 1, 2, . . . , n) のとり方に関係なく、各点の関数値の和が一通りに定まるということです.
この定義に従い、関数の積分可能性を以下の様にして調べることができます。
先ず小さな閉区間[a, b] を定めて、
その区間の小区間への分割の仕方および点ξi(i = 1, 2, . . . , n) のとり方に関係なく、各点の関数値の和が一通りに定まる(積分可能)か否かを調べることができます。
(積分が不可能な関数)
下のグラフの関数f(x)のように、どの位置においても関数の極限が存在しない関数があり得ます。
例えば、
xが有理数の場合にf(x)=0であって、
xが無理数の場合のf(x)=1
という、極限が存在しない関数f(x)などです。
そういう、極限が存在しない関数f(x)を積分して関数F(x)を得た場合(もし積分できた場合)、その積分により得られた関数F(x)は微分可能だろうか。
そもそも、微分の計算は極限を求める計算なので、その関数f(x)が積分できても、その積分した関数F(x)を微分した場合に、元の関数f(x)は(極限値が存在しないので)、微分によっては得られないと考えます。
上図の関数f(x)の変数x=x1からx=x2までの変数xの閉区間をn等分して、その区分した部分毎にf(x)の値f(ξ)を求めて、その値の和で積分します。
(1)その際に、 変数x=ξが全て有理数なら、f(ξ)=0になり、積分結果は0になります。
(2)一方、変数x=ξが全て無理数√2の有理数倍なら、f(ξ)=1になり、積分結果は(x2-x1)になります。
(3)f(x)の値f(ξ)の選び方によって結果が変わるような計算の値は定かでは無いので、その様な関数f(x)は積分することができません。
このように、微分積分学では、あらゆる関数に微分積分を行う理論を作ろうとすると、いろいろな難しい問題があることがわかりました。
微分積分学で、難しい問題が生じない関数の範囲を把握して、その範囲内で微分積分の計算をすることで、応用上で微分積分を使い易くできます。
そのため、使い易い関数として、極限が存在し、かつ、連続な「連続関数」(関数f(x)が連続な範囲にxの定義域を限定した1つながりに連続な関数が連続関数です)を主に扱う対象にし、また、「微分可能性」で関数の種類と、また、関数の変数xの定義域内の所定の範囲を定めて、その所定の範囲内だけで微分積分を行うようにします。その範囲内で成り立つ法則を把握して、種々の公式を導き出して使うことで微分積分学を最大限に応用できるようになります。
微分積分学は、微分可能な関数と積分可能な関数を定義して、その種の関数の間で微分したり積分をします。
「関数を積分して、それを微分したら元の関数に戻る」
という、微分積分学の基本定理がありますが、
その定理は、その関数f(x)の積分可能な部分に限り、かつ積分後の関数F(x)の微分可能な部分に限って成り立つ定理です。
その定理の大前提に、何が微分可能で何が積分可能であるかの定義があります。
(微分積分学の基本定理を厳密に定義すると、「微分積分学の基本定理」という命題は、積分可能条件を記述した命題です)
(微分可能の定義が微分積分学の基本定理を左右する)
微分積分学の基本定理の根底を支えているのが微分可能の定義です。高校数学の微分可能の説明は、区間で定義された関数f(x) の内点での微分可能のみが詳しく説明され、区間の端点での微分が説明されていない。そのため、閉区間(a<x<b)で定義された関数 f(x) で微分積分学の基本定理が成り立つことが説明できません。
一方、大学数学では、変数xが閉区間(a≦x≦b)で定義された関数f(x) の区間の端点x=a,bでも
微分可能が定義されている。そのため、大学数学ならば、閉区間(a≦x≦b)で定義された関数f(x)にも
微分積分学の基本定理が成り立つことが理解できる。
微分積分を学ぶ者は、「微分可能」と「積分可能」という制限条件を定め、その制限条件を満足する関数を扱うのが微分積分学だと認識することがとても大切です。
しかし、この一番大切な概念を高校2年には教えない。高校3年に至っても「積分可能」の概念を教えていないようです。
積分の概念は、数学の研究対象を微小な部分に分割して研究し、その微小部分を集積した全体にまとめ上げて全体を考えるという、適用範囲が広い概念です。
「歴史的に見ても、微分より積分の方がずっと前に出現している。」
積分の被積分関数の計算においては、xのある値で0になる関数を分母にする、すなわち、そのxの値で0になる関数で式を割り算する計算が許されています。しかし、(大学で初めて学ぶ)広義積分を知らないと、その計算が何故許されるかが理解できません。
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